欧州の資産運用業界を覆う暗雲である金融商品の取引と透明性に関する新しい規制は、上場投資信託(ETF)プロバイダーにとって希望の光となる可能性がある。
第2次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)が2018年1月3日に施行され、金融商品取引の報告、透明性、最良執行が義務付けられる。ETFは当初のMiFID規則の対象ではなかったが、最新のMiFIDⅡでは規制対象となったため、ETFの店頭取引の詳細について今回初めて報告義務が課せられることになる。
市場関係者は、今回の規制はETF投資家に恩恵をもたらすと予想している。欧州では機関投資家によるETFの利用は米国と比べてやや低調であるが、いったん機関投資家がETFの出来高や流動性の水準を知るところとなれば、ETFの利用が爆発的に拡大する可能性があるからだ。
ロンドンのムーディーズ・インベスターズ・サービスのバイスプレジデント兼シニアアナリストのマリナ・クレモネーゼ氏は、「実際にMiFIDⅡによってETFに非常に大きな関心が集まることが予想される」と指摘する。
従来、欧州ではETFは店頭取引が主流であったため、取引の報告が義務付けられていなかった。同氏は、「市場全体として出来高に関する情報がなかった。市場の厚みや流動性は機関投資家の意思決定に重要であるため、出来高と流動性に関する透明性が向上すれば、彼らによるETFの利用は今後大きく促進される公算が大きい」との見方を示した。
ETFは市場取引義務の対象ではないため、市場内または市場外で取引される可能性がある。トレードウェブ・マーケッツでロンドンの株式デリバティブ部門のマネージングディレクターを務めるアドリアーノ・ペース氏は、「しかし、取引前後の報告規則はいずれの取引執行形態にも適用される一方、証券会社にも非常に包括的な取引記録の保存義務が課されている。これらの透明性規制によって「欧州ETF市場は流動性の可視性が高まり、これが投資家による取引活動の全容把握を確実に促し、ひいては市場の厚みに対する投資家の信頼感が向上することが見込まれる」と述べた。
影響は既に現れている
MiFIDⅡの施行から1カ月余りしか経過していないが、市場参加者によると影響は既に現れているという。
クオンツ取引会社であり、世界的な流動性提供会社でマーケットメーカーでもあるロンドンのジェーン・ストリート・グループで欧州の機関投資家向けセールスとトレーディングの責任者を務めるスワヴォーミル・ゼゾトコ氏は、「最良執行と取引後の透明性は、MiFIDⅡがETF取引に影響を与えているように見える2つの分野であり、いずれの分野も、規制の変更が機関投資家による(RFQ(リクエスト・フォー・クォート)プラットフォームを通じた取引執行の増加を促している模様だ」と指摘する。
ETFと上場投資商品(ETP)の調査会社でコンサルタントを行うETFGIのデータによると、世界のETFとETPの運用資産残高は1月に初めて5兆ドルに達し、欧州では2017年末比で6.7%の増加となった。ETFGIは欧州のETF・ETP資産額の月次伸び率が絶対ベースで最大となったと発表した。
前出のゼゾトコ氏は、ジェーン・ストリート・グループによる1月のETFへの資金流入額は多額であり、欧州クライアントとのビジネスは前年同月比70%と大幅に増加したと述べた上で、「この要因として、1月は取引が特に活発な月であったことと、その一因に当社のクライアント・ビジネスの増加に加えて、MiFIDⅡの施行の結果としてRFQプラットフォームからの増加分がある」と説明した。
なお、ETFに関するMiFIDⅡの下での透明性向上は、特にETFプロバイダーにとって懸念材料となっていない。
JPモルガン・アセット・マネジメントでロンドンを本拠とするETFの国際部門責任者を務めるブオン・レイク氏は、「ETFに関していえば、規制の影響は差し引きで実質プラスであり、これらの規制が目指すところは全てETFが投資家に提供するものと合致している。ETFは透明性が高いと認識されており、ETF事業の立ち上げと業界発展の経緯から、率直に言って、MiFIDⅡによる変化がETF事業に与える影響は非常に小さい。デスクに座って嘆いたり、対応方法について考えている時間はない。事業の修正やしなければならないことはなかった」と述べた。
ブラックロックは、iシェアーズ欧州ストラテジーに関する情報を収集し、MiFIDⅡから新たな見通しが得られたことによって1月のETFの出来高が急増したことを確認した。
ロンドンでiシェアーズ欧州・中東・アフリカ資本市場チームのマネージングディレクターを務めるパトリック・マター氏は、1月は市場が大きく変動し、資金の動向やトレーディングの一部にこれらの要因の影響が見られた一方で、「それにもかかわらず、出来高に関する限り、ETFが引き続き利用されていた状況が確認できた。我々が受ける恩恵や望むものはETFの店頭取引をめぐる透明性の改善であり、従来は容易に確認できず、報告されていなかったものだ。それは、ETFの実際の出来高のより正確な全体像を把握するために、オンライン取引と店頭取引を加えた出来高を確認することが可能であることを意味する」との見解を明らかにした。
ETF取引額が500億ドル急増
ブラックロックの経営陣によると、ETFの取引報告額が500億ドル急増し約800億ドルになった。
マター氏は、「常に存在していたものが、現在は目で見て確認できるようになり、ETFに新たな関心が集まり始めている。資産クラスへアクセスするための単なる手段としての役割を超えた新しい方法でETFは利用されている」と指摘する。
また、1月に投資銀行のシティグループは、政府機関債の貸借取引の担保として受け入れる金融商品リストにETFを加えたことを明らかにし、その一因にMiFIDⅡを挙げた。シティグループは発表の中で、「ETF市場は依然として比較的利用されていない担保供給源であり、投資家はさらなる流動性の活用が可能となり担保の効率性も向上する一方、インデックスの分散を通じてカウンターパーティーリスクを最小限に抑えることができる」と述べた。
前出のマター氏は、「出来高と取引が一定の臨界点に達すると、担保として受け入れやすくなる」と述べるとともに、MiFIDⅡ規則でETFの流動性が可視化されたことについて、「ETFは貸出が可能であるという認識が徐々に高まりつつある転換点にあることを示している。欧州のETF貸出市場は米国と同じ方向に進んでいることを意味している」と解説している。
同氏は、良好な「借り入れ」つまり証券貸出市場は、「機能的なオプション市場」としても適していると付け加えた。
「欧州で実際にETFオプション取引への関心が高まりを見せるのは初めてのことだ。米国では多くの顧客がETFオプションを利用しているが、MiFIDⅡへの認識が最も高まる(その他の要因もある)2018年には、欧州でETFオプション取引が、ボラティリティ取引やプロテクションの購入を希望する投資家、またはオプションの売却でインカム収入を得たいと考える投資家にとって実践的かつ魅力的な提案として認識されると考えている。最終投資家が実際にETFを利用する方法について全く新しい側面を開放するものだ」とマター氏は締め括った。