2月12日に発表されたトランプ政権の野心的なインフラ計画は、プロジェクトの1兆3,000億ドルの資金を民間の投資家、州・地方政府に依存し、資金源や魅力的なプロジェクトなど詳細の多くが明らかにされていないと潜在的なパートナーや業界の専門家は指摘する。
インフラ計画の狙いの中心にあるのは、意思決定の権限を州・地方政府に委譲し、許認可プロセスを合理化し、規制の障壁を軽減することだ。連邦政府は1兆3,000億ドルの資金の呼び水として2,000億ドルを投入し、そのうち1,000億ドルは追加投資を引き出すための州・地方政府のプロジェクトへ新たなインセンティブを付与するプログラムに充てられる(収入を生み出している過去のプロジェクトに対する融資を含む)。
さらに200億ドルはインフラ資金調達プログラムの拡大に充てられ、そのうち140億ドルは既存の融資プログラム、60億ドルは非課税の民間活動債の拡大に利用される。そして、500億ドルは、専門家が現在見落とされていると指摘する地方のプロジェクト向けに州知事への包括補助金に充てられる。また、200億ドルは現行システムの再構築ではなく、次世代のアプローチに焦点を当てたトランプ政権が「変革的」と呼ぶプロジェクトに利用され、残る100億ドルは「資金調達ファンド」に充当される。
米国土木学会(ASCE)によると、米国では2025年までに4兆6,000億ドルのインフラ投資が必要であるが、特定されている利用可能な資金は2兆5,000億ドルしかない。ASCEは今後10年間のインフラ投資の不足額を2兆ドルと見積っている。
しかし、米国のインフラ投資は増加しており、調査会社プレキンのデータによると、インフラファンド向けに運用されている民間資金が4,180億ドルあり、そのうち2017年にクローズされたインフラファンド向けに調達された金額は650億ドルに上る。
インフラ計画実現は州政府次第
インフラ計画の実行の責任が連邦政府から州・地方政府へ大きくシフトする中、カリフォルニア州サクラメントに本拠を置く運用資産3,566億ドルのカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は、インフラ計画の発表直後に理事会を開いた。カルパースは州に連邦政府の資金に匹敵するだけの資金があるかどうかを疑問視している。カルパースのポートフォリオマネージャー兼首席エコノミストのジョン・ロスフィールド氏は理事会で「州・地方政府の財政状況を見れば、巨額の税金を徴収せずにインフラ投資に参加する資金的余裕があるかは大いに疑問である。積み上げられた多額の連邦債務の一部が、州・地方政府レベルの債務による資金調達や税収の引き上げという形で転嫁されようとしているように見える」と指摘した。
一方、ワシントンのカーライル・グループで運用資産7億5,000万ドルのグローバル・インフラストラクチャー・ファンドのマネージングディレクター兼共同責任者を務めるアンドリュー・マリノ氏は、極めて楽観的だ。同氏は、「州・地方政府にインセンティブを与えることは、インフラ市場にとって正に最善の手段であり、米国が他国と異なるのは米国のインフラ市場は基本的に地方の市場であるということだ。さらに、各州・地方政府には利害調整をしなければならないステークホルダーが存在し、従うべき固有のプロセスがある。投資家とステークホルダーのニーズのバランスを取る上でそれらの力関係が極めて重要になる」と指摘する。
さらに同氏は、「それには多くの合意が必要であり、市場の効率化を進めなければならないことを意味している。インフラ投資家は現地化を強いられることになる。我々は地方の政治力学に怖気づいているわけではない」と付け加えた。カーライルには労働組合の年金基金を運用してきた長い実績があるとした上で、「我々は雇用も創出し、いかなるプロジェクトにおいても納税者を不可欠の構成要素として保護してきた」と主張している。
マリノ氏は、「地方および州のインフラ市場で大きなプレゼンスを持つカーライルは、プロジェクトの資金を拠出することができて光栄だ」と述べた。同氏は合意が破られれば地方の公務員が介入するオーストラリア方式を州・地方政府が採用するケースが増えるとみている。また、「空港ターミナルプロジェクトやブロードバンドシステムなど資金調達の必要性から、州・地方政府はより革新的で非常に起業家的な姿勢に変化しつつある」との見方を明らかにした。
需要の増加
ニューヨークでファンドの組成、ストラクチャー、クローズについてアドバイスを行う、32アドバイザーズのプリンシパル兼インフラ担当の責任者であるマイケル・リコスキー氏は、「トランプ大統領のインフラ計画は需要サイドを増加させることになるだろう。投資家は既に存在する」と述べる。従来不動産に投資していた米国の投資家は、リスク・リターン特性の観点から、過去15年間インフラ投資への関心を強めていると同氏はみている。
リコスキー氏は特に小規模な市場や見落とされていた地方のインフラ市場について、「海外のインフラ投資で20年間の経験を持つ機関投資家にとって、インフラ投資は最適な資産クラスだ。機関投資家は米国以外でインフラ投資の実績を積んでおり、それが基本的なやり方となる。重要なのは投資機会を見極める人材だ。機関投資家が学習しなければならないのは、第三者のファンドマネージャーの監督の仕方になる」と述べた。さらに同氏は、「民間セクターの年金基金は、能力に見合った資金をインフラ投資に配分していない」と指摘し、その理由については、投資家が把握しなければならない多くの州や郡からなる細分化された市場で、年金基金は第三者のマネージャーが投資案件を見つけ出すのを待っているからだと説明している。
全米州財務担当者協会の会長でバーモント州の財務担当者のベス・ピアス氏は、州にとって、トランプ大統領のインフラ計画の成功のカギは非課税債の利用拡大であると述べる。米国のインフラプロジェクトの資金の75%を上回る額を州・地方政府が賄い、州・地方政府は連携が重要であることを認識する一方、非課税の地方債と民間活動債の最大活用や非課税の事前借換債の利用再開といった非課税の資金調達を支援するのは連邦議会の責任であると同氏は指摘する。ただし、事前借換債の利用再開は2017年の税制改革法案からは削除された。
今後10年間で少なくとも1兆ドルを超える連邦債務の増額となる税制改革を受けて、連邦政府が負担する2,000億ドルの工面も課題になる。インフラ資金の2,000億ドルは公共交通機関など他のプログラムの削減で相殺する必要があるため、議会では強硬な抵抗に直面することが予想される。インフラ資金の調達をめぐる争いはまだ始まっておらず、トランプ政権のインフラ計画案は利害関係者が必要と主張する共和、民主両党による超党派的な解決からは程遠い。
ワシントンのブルッキングス研究所でシニアフェローを務めるウイリアム・ガルストン氏は、「今秋に中間選挙を控え、インフラ計画案は時間切れになる可能性がある。民間資金を取り入れることは原則的には大きな意味があるが、私を始め多くの者は州・地方政府が巨額の資金を準備するのは難しいと考えている」との見方を明らかにした。
資金を負担するのは誰か
もう一つの問題は、アメリカ国民が公共資産の利用に金を払うのかということだ。これは、投資案件からリターンを獲得する必要がある投資家に対して魅力的なものとし、提案された連邦政府のインセンティブの対象とするために必要なことだ。ニューヨークのS&Pグローバルのアナリストは2月14日付リサーチノートの中で、「米国のインフラにとっての問題は、民間部門の資金不足ではなく、インフラにどのように金が支払われるかということだ」と指摘した。
さらに、たとえ、民間資金の役割を含め、トランプ政権のインフラ計画が否決されても、「国民が国家のインフラを利用するのにさらに多くの資金負担を受け入れる必要があることは当然だ。本質的にインフラ計画によって、政治的な議論の場に、連邦政府の資金がもはやあてにできない状況の中で誰が新しいインフラの費用を負担するのかを話し合う必要が出て来ている。加えて、もし州・地方政府が単独で、または連邦政府による追加の直接支出やプログラムで不足額を埋めることができなければ、民間部門による問題解決への関与が今後不可避となる」とみられている。
前出のカーライルのマリノ氏は、連邦政府の資金によるインフラ計画は進展する可能性はあるが、より複雑化すると考えている。そして、連邦政府から地方へのシフトに端を発する「交渉の最初の大きな波」が今後道を開き、銀行や他の仲介者がより多くの知識や安心感を得るのを支援して行けば、インフラ資本のコストを低下させることが可能となると指摘する。
同氏は、「物事を実現させるにはより多くの専門知識が必要となるため、現在市場は今までと異なった種類の投資案件を支援していると我々は考えている。金融及び社会的両面における潜在的な利益のために、それは本当に興味深いことだ」と述べた。