記録管理者やリサーチ担当者は、最近の株式市場の乱高下を受けて確定拠出年金(DCプラン)の加入者からの問い合わせが増えていると述べているが、加入者の取引活動は必ずしも典型的な株式から債券へのシフトというわけではない。例えば、ミネアポリスを拠点とするウェルズ・ファーゴ・インスティテューショナル・リタイアメント・プランズ&トラストの顧客であるDCプランの加入者の取引活動からは、ダウ・ジョーンズ工業株30種平均(NYダウ)が1,175ポイント下落した2月5日と、567ポイント上昇した2月6日には資金が株式からバランス型ファンドやターゲット・デート・ファンド(TDF)に移動したことが示されている。
「それは我々にとって予想外だった」と投資責任者のジェフリー・クレッティ氏は述べている。
一方、アライト・ソリューションズは、2月5~6日の全体的な取引の特徴として、株式から元本安定型ファンド、債券ファンド、マネーマーケット・ファンド(MMF)などの債券投資へのシフトが見られたと報告している。ノースカロライナ州シャーロットを拠点とするリサーチ・ディレクターのロバート・オースティン氏は、株価が急落した際の市場の反応は「極めて一般的なものだった」と述べている。
一部の確定拠出年金スポンサーでは、加入者からの問い合わせは少数にとどまった。年金基金の幹部は、記録管理者やリサーチ担当者と同様、多くの加入者が現時点でターゲット・デート・ファンドに投資しているために、最近の株式市場の乱高下局面での取引活動は控え目なものとなったのかもしれないと推測している。さらに、これらの投資が株式市場の混乱の中で加入者に大きな安堵感または安心感を与えた可能性があると付け加えた。
年金基金の幹部は、長期投資に関する継続的な教育も加入者の行動に寄与した可能性が高いと述べている。
長期的な投資
ウェルズ・ファーゴでは、記録管理顧客の年金基金の加入者の間で2月5~6日に株式から通常を上回る資金が流出していたことが判明した。「だが、それは基本的にバランス型ファンドまたはターゲット・デート・ファンドへの資金流入額と合致した」とクレッティ氏は述べている。
同氏は、加入者が「長期的に投資を維持する必要性を認識している」と推測した上で、今回の反応が株価の暴落に対して予想された反応とは「大きく異なる」ものだったと付け加えた。過去に加入者が株式市場から逃避した際には、資金の80%が現金、20%が債券ファンドに回されていたと述べている。
ウェルズ・ファーゴの社内調査によると、2月最初の9日間におけるインターネット取引とコールセンター取引は、前年同期を110%上回った。
ウェルズ・ファーゴの報告によると、インターネット経由の口座照会は前年同期比で210%増加した。しかし、個別ユーザー数ではわずか30%の増加にとどまったことから、一部の加入者が自己の口座を頻繁にチェックしていたことがうかがえる。ウェルズ・ファーゴが記録管理している年金基金では、この期間中のその個別ユーザー数は加入者全体の約20%であった。アライト・ソリューションズのオースチン氏は、市場の下落局面では加入者の取引ペースが加速し、上昇局面では遅くなると述べている。アライト・ソリューションズは、総資産が1,500億ドルを上回る年金基金における100万人超の加入者の日次取引を追跡する401(k)指数を公表している。
2月5日の取引高は、NYダウが635ポイント下落した2011年8月8日以来の高水準となった。当時の下落は、スタンダード&プアーズ社が米国債の格付けをAAAからAA+に引き下げたことに関連して引き起こされた。
2月5日の取引高は通常の日次取引高の約12倍(残高の約0.176%)に上った。前出のオースチン氏は、「これは絶対ベースで見るとわずかだが、相対ベースで見ると2月5日は特別な日だった」と説明した。
アライト・ソリューションズの調査によると、2月6~9日までの日次取引高は、通常の2~5倍に上り、残高の0.027~0.084%に相当した。2月5~9日の週には、2月7日を除いて、株式から債券への資金移動が示された。
皮肉にも、アライト・ソリューションズは最近、2017年の取引高が20年前の401(k)指数導入以来最低となったと発表したところだった。
1%が取引を実行
ペンシルベニア州モルバーンに拠点を置くバンガード・グループ・インクの報告によると、課税及び年金口座では、2月5日に個人の1%が取引を実行した。これは同社が2011年にこうした個人の取引行動を追跡し始めて以来、同社の投資家の間で3番目に大きな取引高だった。2月5日の取引額は資産のわずか0.3%にとどまったが、2011年以降で2番目に大きな額となった。一方、バンガードの投資家リサーチ・センターのシニア・リサーチ・アナリスト、ジーン・A・ヤング氏によると、NYダウが406ポイント上昇した2月13日には、株式市場の乱高下が続いていたにもかかわらず、日次取引高は「年初来で最低」を記録した。
ヤング氏は、401kプランにおける加入者の指図による取引の年間比率(一任口座を利用する加入者を除く)は、ターゲット・デート・ファンドの人気、加入者に対する教育、低ボラティリティ局面も一因となり低下している。バンガードの直近の調査によると、2007年の14%に対して2016年は8%だった。
バンガードの401kプラン顧客に関する年次分析によると、退職金の全額をターゲット・デート・ファンドまたはバランス型ファンドに投資する加入者の取引頻度は、年金基金内の他の選択肢に投資する加入者よりも低かったことが判明した。
昨年発表された調査報告書によると、ターゲット・デート・ファンドに投資するグループの中で、2016年に取引を実行した者は2%だった。2009年以降の各年の割合も同様だった。バランス型ファンドに投資するグループでは、2016年に取引を実行した者は3%に上り、2009年以降では2~3%だった。
ただし、この報告書によると、他の選択肢に投資した加入者の場合、2016年に取引を実行した者は12%に上り、2009年以降では12~14%となっている。
さらなる問い合わせ
コロラド州グリーンウッド・ビレッジを本拠とするエンパワー・リタイアメントの記録管理顧客の年金基金への加入者は、2月5~9日の間に通常よりも多くの問い合わせをしている。広報担当のスティーブン・ゴーリック氏は、「資金配分や特定の戦略から明確なトレンドは見当たらなかった」と述べた。
同氏は電子メールの中で、「大筋において、加入者の間では長期投資という考え方が定着してきたと我々は考えている」と指摘している。
週間ベースで見ると、コールセンターの受電件数は2月5日に33%、2月6日に25%増加したが、それ以外の日の件数は正常だった。エンパワーの通常の受電件数は1日当たり2万2,000件に上る。
ゴーリック氏はさらに、「この週の電話での問い合わせタイプ別では、投資の選択について話し合いたいと考えた加入者が通常の週に比べて75%増加した」と述べている。
また、同氏は、「投資に関するこれらの電話の中で、約3分の1は資産配分の変更に関するものだった。これは平均的な日の約2倍に上った。残りの3分の2は、担当者と話し合った結果、何も行動を起こさなかった」と説明した。
オハイオ州コロンバスにあるオハイオ州職員繰延報酬プログラムでは、2月2~9日までの電話の問い合わせ件数が通常よりも57%増加したと、エグゼクティブディレクターのキース・オーバーリー氏は述べている。同プランの資産は2017年末時点で135億ドルだったが、1月には141億ドルに増加し、2月9日までには134億ドルに減少した。
オーバーリー氏は、電話での問い合わせ件数の増加の一因が、株価が反発し始める直前に当プランが年次報告書を送付したことにあったと考えている。通常であれば、電話での問い合わせ件数は年次報告書の発行によって20%増加するとしている。
同プランの2月初旬の取引件数は1,500件と、通常の2倍となった。オーバーリー氏によると、これらの取引を行った加入者は20万人に上る同プラン加入者全体の1%未満にすぎず、「驚くことではなかった」と述べた上で、大半の取引が株式から債券への乗り換えだったと付け加えた。
他のスポンサーは、問い合わせと加入者の取引が少数にとどまったと報告している。
アイオワ州ペラに拠点を置くヴァーミアー・コーポレーションのシェアード・サービス・ディレクターのチェリ・クライン氏は、「当社の受電数はわずか2~3件にとどまり、過去の似通った状況下でもそのようなものだった。我々は加入者と多くのコミュニケーションを取っており、彼らは冷静に受け止めているようにみえる」と語った。
クライン氏は、ヴァーミアーの投資顧問会社のメンバーが最近の年金基金設計と投資の変更について説明するために現地を訪問したのと同時期に株式市場の乱高下が起こったため、多くの加入者は節度を持って対応したのではないかと推測し、「一対一のコミュニケーションが一番だ」と指摘している。
さらにクライン氏は、「過去に株価が暴落した際にも、加入者の取引活動は実際に変化しなかった。我々は長期投資に関する多くの教育を提供し、良くコミュニケーションを取っている」と付け加えた。