世界中の資産運用責任者は、人気のあるレバレッジドローン資産クラスにおいて、借り手に有利な条件やコベナンツの緩和が広がっていることに懸念を強めつつある。
ロンドンを拠点とするレバレッジドファイナンスのデータ提供会社デット・エクスプレインドの分析によると、2017年のレバレッジドローン市場では、契約条件が緩和された、いわゆるコベナンツライトのディールが中心となった。
同社によると、欧州におけるコベナンツライトのディールが全体に占める割合は、2016年の37%から2017年は52%に上昇した。欧州のレバレッジドローンのディールでは、伝統的に財務維持コベナンツは4~5項目あった。借り手が守らなければならない、インタレスト・カバレッジ、キャッシュフロー、負債比率などの財務比率のことだ。しかし、この新しい市場環境を背景に、コベナンツはたった1項目に減少し、その1項目でさえトリガーに抵触しない限り適用されないようになった。
複数の資産運用会社関係者によると、米国ほど進んではいないものの、クレジットサイクルが欧州でも後半に差し掛かっているとみられている。彼らの推計によると、米国でレバレッジドローンのディールの約75%がコベナンツライトだという。
「各クレジットサイクルの中で、破滅の種は天気の良い日に蒔かれている」と、ロンドンのJPモルガン・アセット・マネジメントで欧州ハイイールド債券運用の責任者を務めるピーター・アスプベリー氏は語り、「発行企業の見通しがファンダメンタルズ面で健全だったために、今わずかだが油断が忍び込んでいる可能性がある。こうした油断が、コベナンツが設定される方法の中にこれまでのどの時点よりも感じられる」と付け加えた。
ローン市場を債券市場と比較すると、「相対的に強く、貸し手に対する保護があることをかつては自負していたが、ローン資産に対する投資家の需要が強まったことで、相対的な貸し手保護の水準が弱められた」とアスプベリー氏。
ロンドンのハーミーズ・インベストメント・マネジメントでクレジット運用の共同責任者を務めるフレーザー・ランディ氏は、「コベナンツの緩和あるいはコベナンツライトは、おそらくクレジットサイクルの中で現在最も広がっているとの指摘は正しい。過去2年間はこうした動きは低調だった」と述べた。
幾つかのコベナンツがこれまでと異なる方法で発行会社が存続することを許容しているため、この状況から分かることは「デフォルトになった場合のリカバリー率の低下だ」とランディ氏は述べ、「こうしたタイプの企業行動は、以前のサイクルでは許容されていなかった」と続けた。
コベナンツ緩和の背景には、需要の増加が関係している。リッパーのデータによると、欧州のレバレッジド・ローン・ファンドには、2016年の35億ユーロに対して、2017年には92億ユーロ(115億ドル)の資産が集まった。
ロンドンのブルーベイ・アセット・マネジメント・エルエルピーのレバレッジド・ファイナンス・チームで機関投資家向けポートフォリオマネージャーを務めるマーク・ケンプ氏は、「コベナンツは緩和され、ストラクチャーは確かに一段と発行会社寄りになった。我々はおそらくデフォルト率の上昇やリカバリー率の低下を今後数年はあまり目にしないだろう」と述べた。さらに、欧州の現在のローンストラクチャーが問題視されることは、今後数年はないとしながらも、「相場に対して後悔する時期が訪れ、もっと規律を守るべきだったということになるかもしれないが、いずれにせよ数年先のことだ」と指摘した。
懸念しているのか?答えはイエスだが・・・。
ニューヨークのゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントでハイイールド債券とバンクローン・チームの共同責任者を務めるラッチェル・ゴルダー氏は、「我々のチームでは懸念している」と述べた。さらに、「懸念しているのかと聞かれれば、答えはイエスで、このクレジットサイクルの中でコベナンツライトが最も高い格付けの企業から最もリスクの高い企業を除き、すべてに広がっている点が懸念される」と述べ、「世界金融危機以前は、コベナンツライトの企業行動に大きな差は見られず、市場が緊迫した状況でもそうだった。しかし、当時は格付けの高い企業に適用されていたからだ」と指摘した。
ディール中の比率が大きくなった現在のコベナンツライトから示唆される点は数多くある。ゴルダー氏は、「潜在的には、デフォルトが発生する前に信用力の毀損があり、負債の増加と企業価値の低下、そしてデフォルトに際しては最終的にローンや負債のリカバリー率の低下につながる。また、企業のオーナーや経営陣と貸し手との間で利害関係を対立させるような企業の大胆な行動が見られるほか、文言の修正や権利放棄によって手数料収入が途絶えることにもなる」と懸念する。
懸念につながるその他のトレンドもあると、複数の市場関係者が口にする。
アイオワ州デモインを拠点とするプリンシパル・グローバル・インベスターズ・エルエルシーで、マネージングディレクターとプリンシパル・フィックスド・インカムのポートフォリオマネージャーを兼任するマーク・セルニッキー氏は、「当社はコベナンツライトを懸念しているが、それよりも現時点ではバンクローン全体に広範な懸念がある」と述べた。「一連のコベナンツは確かに緩和され、実際に債券とローンの境界が不鮮明になってきた。ある部分では、変動金利のハイイールド債券は非常にバンクローンに似ている。境界があいまいになった結果、債券に対するバンクローンの優位性の一つが失われた。それは、クレジットサイクル後半にコベナンツを通じて得られる、債権者の保護という点だ」と指摘した。
ロンドンのシュローダーPLCで債券ファンドのファンドマネージャーを務めるマイク・スコット氏は、緩和されたコベナンツは真剣に取り組むべき事項だと述べ、「この資産クラスに投資しているのであれば、非常に強力な分析能力が必要になる。これは簡単には理解されない点だ。幾つかのローンストラクチャーは投資家の利益になっていないことを見出した。例えば、コールプロテクション期間が短縮されたローンが増えている」と続けた。特に変動金利の市場でその傾向は顕著であり、発行会社が自らに都合のよい行動を取れば、コールプロテクション期間がより長いストラクチャーの場合、投資家が享受できた値上がり益が得られなくなると指摘する。
スコット氏を始め資産運用会社の幹部は、発行会社がEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を発表する方法にも懸念を抱いている。EBITDAの数値にいくつかの項目を増減させて調整を加えた数字によって、発行会社はローンディールに際してよりコベナンツ・ライトな状況を作り出せるとしている。
EBITDAに修正を加えることで、従来の方法で算出した企業の利益率は上昇し、実際よりも債務水準が低下する可能性がある。ロンドンのBNPパリバ・アセット・マネジメントでハイイールド債券のポートフォリオマネージャーを務めるオリビエ・モニュール氏は、公表されたEBITDAと調整後EBITDAの差異は徐々に拡大しており、投資家のリスクが増す状況につながっていると指摘する。
前出のJPモルガン・アセット・マネジメントのアスプベリー氏は、いわゆる「項目の増減」の内容が「ますます大胆になっている」と付け加えた。
とはいえ、ローンの条件決定の際に投資家や運用担当者が慎重になる場面も散見され、条件交渉に関して徐々に積極的になっているようだ。複数の関係者によると、投資家が条件を押し戻してコベナンツやその他の条件を厳しくしたディールが、今年初めから世界中で見られるようになったとされる。
モニュール氏は、「コベナンツの緩和は近い将来の問題を生み出しているが、それに対して今年は投資家の抵抗が見られる最初の年になるだろう」と述べた。約3年でデフォルトが顕在化すると思われるため、投資家がより慎重になる必要があるのは今だということなる。
ロンドンのインベステック・アセット・マネジメントでマルチアセット・クレジットの共同責任者を務めるジェフ・ボスウェル氏は、「個人的には、最近の投資家からの抵抗の要因は、振り子が発行会社方向に振り続けていたからだと思っている。現在目にしている条件設定の質は間違いなくサイクル上の最低点にあり、次のデフォルトサイクルでは、デフォルトしたはずの多くの発行体がデフォルト回避に向け様々な画策が許される状況になるだろう」と予想している。
同氏はさらに、投資家は「法律上のリスクや企業のクレジットリスクを分析することによって、リスクを上手く管理する必要がある」と語った。