執筆者:アリーン・ジャコビアス
2020年9月21日
カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)最高投資責任者(CIO)が突然辞任したことで、一部の理事会メンバーが、昨年講じた措置にもかかわらず余計な干渉をしていた可能性があることが明らかになった。
会議の開催時期(定例か緊急か)あるいは形式(公開か非公開か)について理事会メンバー間で書簡による応酬があった後、理事会は9月14日から16日まで及んだ長時間の会議に於いて方針の転換を試みた。
多くの理事会メンバーが、自分たちに与えられている認識はなかったと会議中に表明した権限を行使し、理事会は参考事項を決議事項へと変更し、重要なガバナンス上の変更も決定した。それにはCIOの採用、罷免、評価を最高経営責任者(CEO)と理事会の共同責任とすること、昨年末に下した決定を覆し、投資委員会を理事全員で構成する委員会に戻すことなどが含まれている。
理事会は、8月のユー・ベン・メン前CIOの辞任問題と格闘中だが、さらなる展開もあり得る。メン氏は金銭的利益相反の可能性について、カリフォルニア州公正政治的慣行委員会監視部門の調査を受けている。
増大する投資運用のインハウス化やオルタナティブ資産への直接投資の一環として、ガバナンス問題に奮闘する資産運用会社は、4,173億ドルに上る運用資産を持つカルパース(本拠サクラメント)だけではない。このような動きによって、投資担当者が共同投資やオルタナティブ投資への戦術的意思決定を迅速に行えるよう、より多くの裁量を理事会から職員へ委譲することが必要になる可能性がある。
カルパースでは2019年3月に、外部機関を通じて直接投資を行うプライベートエクイティ投資モデルを理事会が承認した際、メン氏をはじめとする職員が、彼らの投資権限の拡大を求めた。このモデルはその後棚上げとなっている。
2018年以降、CIOは、プライベートエクイティ投資は1件当たり10億ドルまで、プライベートエクイティ・セカンダリー投資は1件当たり17億ドルまで実行する権限を有し、年間投資可能件数にも制限はなかった。2019年9月には、他の職員に対して、プライベートエクイティおよび不動産投資に対する権限が追加で与えられた。
カルパースの状況を含め、多くのガバナンス上のジレンマの中心にあるのは、職員が決定した方針に理事会が過剰に干渉することなく、いかに監視し監督するかということだ。さらに、理事会とその委員会、理事会と日常業務を担当する職員それぞれの間での信頼の問題がある。
理事会の役割は運用を行うことではなく、運用の方向性を定め、理事会のビジョンに沿って運用が行われるよう監督することだと、ミシガン州ブルームフィールドヒルズを本拠とするガバナンスとリスク管理のアドバイザリー会社、ファンストン・アドバイザリー・サービシズのマネージング・パートナー、リック・ファンストン氏は語る。
ファンストン氏はカルパースに限定したコメントは避けているが、9月15日にカルパースのガバナンス委員会に出席し、理事会は方針転換後1年を経過していないので、安定性の観点から投資委員会を小委員会にとどめるよう助言した。
「レース中の帆船を想像して欲しい。理事会はどこだろう?船上ではない」と同氏は言う。
重要問題
ガバナンスを適切に行うのは重要なプロセスだ。
様々な研究から、理事会によるガバナンスの強化は年金基金のパフォーマンスと一般的に正の相関を持つとみられると、トロントを本拠とするKPAアドバイザリー・サービスの社長で、トロントのインターナショナル・センター・フォー・ペンション・マネジメントの名誉会長であるキース・アンバクシア氏は電子メールで伝えた。
こうした研究はまた、米国における年金の投資パフォーマンスおよび年金の拠出状況と、理事会メンバーのうち職権または投票で任命されたメンバーの割合との間には、逆相関があることを示している。
カナダの年金基金は政治色が薄いと同氏は言う。
アンバクシア氏は「カナダの年金基金が優れたガバナンス・プロセスと財務成績を達成しているのは驚くべきことではない。対照的に、職権や投票による理事会メンバーの選出比率が高い場合は、短期的な政治的配慮が最善の利益を追求する長期的な考慮を凌駕することも驚きではない」と語る。
カルパースでは、理事会メンバーのうち6名は投票で、4名は職権上、3名は任命によって決まる。
カナダでは、理事会メンバーの候補者は候補選定のために組織された指名委員会により、能力、経験および戦略的思考能力に基づいて推薦されるとアンバクシア氏は語る。
精査中
カルパース理事会は、前CIOのメン氏が8月に突然辞任したことにより、ガバナンスの再点検に着手することになった。同氏は、これに先立って本年、プライベートエクイティ投資会社2社、ならびにそれ以外の、カルパースが以前投資を委託していた投資会社の事業開発関連会社の株式に投資していることを公表している。本開示は、カルパースがメン氏に対して提出を求めていた経済的利害関係に関する報告書類の一部であった。
この報道は州の公正政治的慣行委員会への匿名の苦情につながり、同委員会の監視部門により現在調査中となっている。
カルパースCEOのマーシー・フロスト氏は、CIOの採用、解雇ならびに監督に単独で責任を負っているが、メン氏に関する内部調査については、4月に理事長のヘンリー・ジョーンズ氏ならびに二つの委員会の委員長に通常通り報告したと、先週の理事会ならびに委員会に先立って行われたインタビューで述べている。
また彼女は、業務執行メンバーに関する調査は、通常その完了時に理事会全体に報告すると述べている。
カルパースのガバナンス方針には、CEOが人事案件に関して理事会へ報告する義務について、そのプロセスが規定されていない。
カルパースは一部の最高幹部に対する調査について、どのような場合に理事会全員に報告すべきかを明確にするため、ガバナンス方針の変更を検討中である。
ファンストン氏によれば、米国上位57年金基金においては、CEOのみが理事会へ直接報告し、CIOを含む残りの職員はCEOのみに報告することが主流であるという。
この背景には管理責任の一元化があると同氏は言う。
ファンストン氏によれば、CEOは職員の採用、解雇ならびに処遇に関する権限を有する一方、人事上の決定について理事会に驚きを与えないよう、随時理事会と協議することが実務上は主流であるという。
「このことは、我々の周りのどのような組織においても重要な差別化要因となる」と同氏は言う。
掌握
9月15日に理事会は、2011年以前に担っていたCIOの採用、評価ならびに契約終了に関する責任をCEOと共有する理事会の役割を復活させた。また、投資委員会を理事会全員である13名の構成に戻す変更を行った。
カルパースの慣例に従い、先週のガバナンスに関する議論のほとんどは委員会で行われた。
ガバナンス委員会に出席した理事は、理事による監督の必要性とその監督を行う上で必要となる十分な情報とのバランスの取り方に懸念を表明する一方、メン氏の辞任に対して拙速な変更を行わないことで組織の安定は保たれるとみている。
理事たちは、CEOを除くカルパース全職員を規定する雇用と解雇に関する公務員規則によって州職員に与えられた機密保護の権利に干渉することや、日常業務を信頼できる職員に権限移譲を行いつつ、組織を慎重に運営する責任を踏み越えはしないかと懸念している。
「CIOの採用と解雇に共同責任を負うことが適切な妥協点だ。」とリサ・ミドルトン理事は9月15日のガバナンス委員会で延べ「我々は安定に至ることが重要である」と強調した。
カルパースはまた、カリフォルニア州政治改革法の比較的狭い制限の下で利益相反を引き起こし得る証券については、次期CIOがカルパース着任前に売却または白紙委任信託へ移管することの義務付けを検討している。
9月16日、カルパースの業績・報酬・人材管理委員会は、次期CIOのみならず、理事ならびに一部職員についても、州改革法の下で利益相反を引き起こし得る資産の売却または白紙委任信託の利用を求める提案について、職員に継続調査と11月中の結果報告を指示した。
同法は、州職員の判断による同職員の個人的資金調達、またはその他金銭的利害に財務的影響を及ぼすことが予見されるものはすべて利益相反と定義している。
理事たちは総じて、利益相反とみなされる行為または実際の利益相反の回避に賛意を表明しているが、白紙委任信託の仕組みや売却すべき保有資産の選別方法に疑問を呈しているメンバーもいる。
「本件は監督不行き届きに対するお決まりの対応のように感じられる」とマーガレット・ブラウン理事は述べ、「内部調査はこれからであり、我々は先走り過ぎている。」とも付け加えた。
同氏は、今回の提案で問題を解消できるのか、この提案がカルパースの採用活動にどう影響するかを判断する上で、業績・報酬・人材管理委員会は更なる時間と、他の米国およびカナダの年金基金がこのような問題にどのように対処しているかの情報が必要だと述べた。