執筆者:ヘーゼル・ブラッドフォード
機関投資家は投資リスクまたは投資機会として水により多くの注意を払う必要がある、と言われている。
サステナビリティを推進するNGOグループ、セリーズ(Ceres-企業行動を環境保全の面から監視する米国のNPO)が水リスクに関して米国の4つの主要株価指数を調べたところ、半数以上のセクターで重大な水リスクが発見された。ほとんどの業界が水資源の減少、コストの上昇、汚染、気候変動、規制強化および水をめぐる競争激化など、水に関連したリスクを抱えている一方、ほとんどの企業は自社あるいは投資家のために、これらのリスク管理に十分な注意を払っていない、とセリーズは主張している。
セリーズによると、これらのリスクは投資家にとって重要となり得るので、投資家は積極的に対応する必要性が出てくるだろう。「世界的な水の危機は世界的リスクだ。投資家は真に重要な役割を果たさなければならない」と、水に起因するサステナビリティ・リスクに対処するため、投資家と企業を動員する取り組みを担当しているセリーズの「ウォーター・プログラム」部長、カーステン・ジェイムズ氏は述べた。
この目的のため、カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS-ウェスト・サクラメント拠点、運用資産額3,184億ドル)を含む投資家の中には、セリーズとオランダ政府によって結成された「バリューイング・ウォーター・ファイナンス・タスク・フォース」を率いて、さらなる開示とサプライチェーン全体の水リスクの管理を含む水に関連した金融リスクに対する企業行動を推進している者もいる。
CalSTRS、運用資産額620豪ドル(450億ドル)を擁するオーストラリアのシドニー拠点のスーパーアニュエーションHESTA、運用資産額2,660億ユーロ(3,118億ドル)のオランダ年金基金PGGM、およびその他の投資家の支援により、セリーズは投資ポートフォリオの水リスクを評価し、これに対応するための投資家向けツールキットを開発した。
これらの投資家は、投資ポートフォリオ内の水に対する配慮の強化を目的とした投資家向けリソースである「セリーズ・インベスター・ウォーター・ハブ」にも参画している。
運用資産額7,225億スウェーデンクローネ(831億ドル)を擁するスウェーデンの公的年金AP7(ストックホルム)にとって、サステナブル水投資は、2018年にインパックス・アセット・マネジメントとKBIグローバル・インベスターズに「グリーン・エクイティ・マンデート」を与えて以来の優先事項となっている。
総額2億8,600万ドルのグリーン・エクイティ・マンデートは、サステナビリティ・ソリューションへの投資を目的とし、さらに投資からのインパクトを計測するための研究プロジェクトも含まれている。AP7は、グリーン投資を2025年までに倍増し、あらゆる資産クラスでグリーン・マンデートの増加を目標としている。
需要と供給のギャップ
2030年までに世界全体で水の需要と供給に40%のギャップが生じると予想されていることから、「その影響は巨大であり、それがますます明白になり始めている」と、ダブリンのKBIグローバル・インベスターズでシニア・ポートフォリオマネジャーを務めるキャサリン・ケーヒル氏は語る。同氏が担当する水戦略の運用資産額はこの2年間で倍増し、28億ドルに達している。
水資源問題に取り組む企業や政府からの需要に加え、ESG投資全体が伸びていることもあり、水戦略は良好なパフォーマンスを示していると同氏は指摘する。
「投資家は水と気候問題が複雑に結びついていると認識し始めている。水に注目する機関投資家が増えているが、水と気候問題が相互に極めて密接に結びついていることがその理由の一部だ」と、ワシントンを本拠とするカルバート・リサーチ・アンド・マネジメント(運用資産額360億ドル)でバイス・プレジデント兼ポートフォリオマネジャー、ジェイド・ファン氏は語る。
水インフラに向けられる企業や政府のリソースが増加する見通しであることから、問い合わせも増えている、とファン氏は話す。同氏は、ESGデータに基づく一連の指標であるカルバート・レスポンシブル・インデックス(Calvert Responsible Indexes)の担当マネジャーとして、水リスク投資を統括している。
投資家にとっては炭素の方がエクスポージャーを絞ることによって、より容易な管理が可能だが、水の場合は、供給、インフラ、処理など複数の極めて重要な補助的な評価基準値の検討が必要となる、とロンドンのインパックス・アセット・マネジメントでサステナビリティおよびESGの責任者を務めるリサ・ビービレイン氏は指摘する。インパックスでは、運用資産額380億ポンド(522億ドル)のうち18%を占める水戦略において、水資源の内部ガバナンス、水リスクの開示、透明性という3つの観点から企業を評価する。
AP7にとってリスクの観点から問題となるのは、水リスクの開示に関する企業の透明性、希少な水や汚染された水の管理方法、そして投資が実生活に与えるインパクトである、とビービレイン氏は述べた。
多くの業界にリスクが
水の安全が確保されていないリスクのある産業は、鉱業、化学薬品、化石燃料に始まり食品、飲料、および製造業(特に防衛・自動車産業機械)まで幅広い範囲にわたっている。半導体やアパレルなどの水を大量に使用する業界では、「そうしたリスクがますます高まっている」とカルバートのファン氏は指摘する。完全なリスク回避が困難な企業については、「その企業が自社の水をどのように管理しているかよく理解する必要がある」と同氏は言う。
サステイナリティクス(ESG評価大手機関)が取りまとめる2つの主要な水に関する指標、すなわち水の消費量と取水量(企業が取り入れるか、他の潜在的ユーザーから流用する合計量)について、多くの企業が報告できていない現状を踏まえると、これは大きなチャレンジだ。これまでのところ、欧州各国の一部では、地域の環境基準やガイドラインを厳格化することにより、両指標に関する報告への取り組みを促進している。
AP7に関しては、同基金のグリーン・エクイティ投資に関するマンデートの主眼は、水やその他資源に対する持続可能性の影響を計測する独自指標の開発に置かれている。
水資源への影響を計測するフレームワークも水質よりも水量に注目しがちであるが、SDG6「安全な水とトイレを世界中に」を含む国連の持続可能な開発目標にますます投資家の関心が集まり、より良いフレームワークにつながる可能性があるとされている。
もう1つの発展段階にある投資分析手法は、水リスクが高い業種や株式を水の使用量や地域別のリスク、およびその他の尺度で評価する水のフットプリントだ。
ロンドンに本拠を置く環境ディスクロージャーに関するNPOグループCDP(Carbon Disclosure Project)は、200以上の産業活動について水質と水量の潜在的影響を計測する「ウォーター・インパクト・インデックス」を8月に発表した。CDPは、水不足と闘う上で企業が現在いくら投資を行い、さらにいくらの投資額が必要となるか算出している。
水不足や洪水そして干ばつなどの水リスクはオペレーションやサプライヤーの混乱、コストの上昇、そして規制上の不確実性をもたらすとの認識が高まることで、水を重大なリスクとする企業による情報開示が改善していることは朗報である、と水資源研究所(Water Resource Institute)は述べている。
その間にも投資家は、保有する企業や広くビジネス界とのエンゲージメントを強化すべきだと言われている。
セリーズは水に関するスチュワードシップ指針を策定しており、水に関するグローバル投資家向けキャンペーンを2022年初頭に立ち上げるべく準備している。セリーズのジェームス氏は、投資家イニシアチブであるクライメートアクション100+が、世界最大級の温室ガス排出事業者に気候変動について必要な行動を取らせることに成功したことを引き合いに出した。「クライメートアクション100+イニシアチブが気候に対して成し遂げたことを、水に対しても行いたい」と同氏は述べた。
解決策
世界的な水危機への取り組みをスタートするには、「スケールとスピードが必要だ。ここが投資家の本当の出番である。年金基金やその他の投資家は、企業レベルから全世界レベルに変化を促進させるのに大きな役割を果たし得る。その結果、リスクが緩和され、投資機会および水資源の保全が可能になる」と、アムステルダム拠点のサステイナリティクスで水問題のエキスパートであるカタ・モルナール氏は述べた。
企業としては、投資家の支援を受けて水セキュリティに投資する必要性に気付くことで、漏水検知、使用量計測、水の浄化、さらに水の節約や再利用方法と言った新たなテクノロジーに関する投資機会が提供され、またエンジニアリング会社やコンサル会社にとってもその手助けをする機会となろう。
「水への需要が増加する中で水のフットプリントを管理することは、他方、重要な天然資源として水を管理し節約する中で魅力的な投資機会を創出する。具体的には、海水淡水化プロジェクト、工業排水処理、水の管理・分析、インフラの更新、および再生可能燃料などである」と、ニューヨーク拠点のプライベート・エクイティ投資会社、クリアストリーム・キャピタルの創設者兼マネージングパートナーのアンドリュー・ワード氏は語った。
2,320億ドルの運用資産額を擁するロべコ・インスティテューショナル・アセット・マネジメントは、持続可能な水関連エクイティ・ファンドを通じて20年以上にわたり水資源へのソリューションに注力してきた。同ファンドへは機関投資家からの関心の高まりを見せている、とチューリッヒ拠点のポートフォリオマネジャー、ディーター・クーファー氏は述べた。
運用資産額36億5,000万ドルのファンドは、水のバリューチェーンに沿って工業排水処理、水質分析、およびインフラの分野から、急成長を遂げている企業に特化した投資を行っている。「こうした企業には、魅力的なリスク・リターンの特性、および投資機会が見い出せる」とクーファー氏は指摘した。
インパックスのビーヴィラン氏は、水がより注目を集める優良な投資である点に賛同している。
「エンド・マーケットという点では分散化が進んでいる。成長が見られ、ベータも相対的に低い。毎年リターンでは市場全体を上回っている。多くの企業がソリューションに取り組んでいる事実を反映していると思われる」と同氏は付け加えた。
こういった多くのソリューションは、英国グラスゴーで11月に開催される国連気候変動会議で取り上げられ、「水と気候館」では、長年の末に、水についても(気候と)同等に扱われる予定である。