執筆者:ダグラス・アペル
世界の大手資産運用会社上位500社の2021年の総運用資産残高は前年より10.2%増加して131兆7,000億ドルとなったが、長期にわたったマクロ経済政策による業界への追い風は、終焉を迎える可能性が高い。
ロンドンを拠点にウイリス・タワーズワトソンの非営利調査部門であるシンキング・アヘッド・インスティテュート(TAI)で共同責任者を務めるマリサ・ホール氏は、インタビューに答えて、「今日、投資環境は不確実性を増し、市場の変動は激しくなり、システミックリスクに対する懸念が高まる中、アセットオーナーたちは、この低リターンの厳しい環境の中で、どの運用会社が自分たちの求めるリターンを提供してくれるのか、熟考しなければならなくなるだろう。大手運用会社も小規模なブティックも同様に、そうした環境で引き続きチャンスを見出すことができるはずだ」と語った。
当社とTAIによる最新の年次ランキングによると、2021年には大手運用会社がさらに運用資産残高(AUM)を増やしたことがわかった。ランキング上位20社のAUMは、その他のグループを上回る13%の増加となり、全体に占めるシェアも前年の44%から45.2%へと上昇している。2021年末までの10年間で見ても、上位20社のAUM増加率は年率9.3%と、上位500社の7.6%を凌駕している。
上位500社からトップの20社を除いた残り480社のAUMは、全体に占めるシェアが低下している。21位から50位までの運用会社のシェアは前年の21.2%から20.4%へ減少し、この地盤沈下は6年続き、上位20社がここ3年連続でシェアを拡大したのとは明暗を分けている。続く200社(51位から250位)の資産総額のシェアは29.3%から29.1%へと微減、残る下位250社のシェアも5.4%から5.3%へと低下した。
ブラックロック、バンガード・グループ、フィデリティ・インベストメンツ、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)のトップ4社は2021年もその地位を維持したが、2021年の資産増加率はパッシブ運用が12.1%とアクティブ運用の9.5%を上回った年となった。
これらの最上位の運用会社は「ますます規模が大きくなっており、最上位カテゴリーでは米国が引き続き優勢だ」とホール氏は述べた。
上位20社にランクされた運用会社のうち15社を占める米国勢の資産総額は対前年比17.7%増の48兆7,000億ドルとなったが、前年上位20社の構成は米国14社、欧州6社だった。
最新のランキングでは、ボストンを拠点とするウェリントン・マネジメントが1兆4,000億ドルの資産残高で前年度より2つランクを上げて20位に躍進し、代わりにパリを拠点とするナティクシス・インベストメント・マネジャーズがわずか90億ドルの差で、20位から21位に滑り落ちた。
その他上位陣で目立った変化は、アトランタ拠点のインベスコが1兆6,000億ドルのAUMで21位から15位へとランクを上げ、一方、前年17位だったウェルズ・ファーゴが上位20社の圏外となった。これは、ウェルズ・ファーゴが、ウェルズ・ファーゴ・アセット・マネジメント部門をオールスプリング・グローバル・インベストメントと改名して、スピンオフしたためであり、オールスプリングは5,743億ドルのAUMで、最新のランキングでは53位に位置している。
上位20社に留まった欧州の運用会社5社の合計運用資産は、前年比4.4%減の10兆8,000億ドルとなった。
2011年時点の上位500社のうち218社の名前がリストに見当たらないのは、この業界が再編されている証拠だ、とホール氏は指摘した。
おそらく、その大半は競合する大手が中小運用会社を吸収した結果であろうことは驚くにあたらない。
持続力
それとは対照的に、最大手の運用会社は生存力の強さを発揮しており、最新のランキングのトップ25社のうち20社は、10年前のランキングでもトップ25社の地位にあった。そして、それ以外の5社についてもそれほど引き離されていた訳ではなく、2011年のランキングでは27位から38位までに位置していた。
過去5年間でランクを大幅に上げた運用会社(上位50社入り、もしくは競合ゾーンの中で大きくランクアップした会社)の中には、大規模な買収のおかげでその地位を得た運用会社もあり、業界再編のスピードが早まっているとのTAIのレポートと平仄が合っている。
そうした会社の例を挙げると、トロントに拠点を置くブルックフィールド・アセット・マネジメントは、5年前の73位から43位に大躍進しているが、これは同社が2019年9月に当時1,200億ドルのAUMを擁するオークツリー・キャピタル・グループを傘下に入れたことによる部分が大きい。カリフォルニア州サン・マテオを拠点とするフランクリン・テンプルトン・インベストメンツは、2020年7月に8,000億ドル超のAUMを持つレッグ・メイソンを買収した結果、29位から17位へと順位を上げている。そして26位から18位へと順位を上げたモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントは、ボストンを拠点に5,000億ドル超のAUMを擁するイートン・バンスを2021年3月に買収している。
テクノロジーに注力
業界のベテランによれば、今年始まった厳しい投資環境のもとでは、多くの運用会社がデータ分析能力だけではなくブロックチェーンなどのテクノロジー開発への投資に目を向けていく中で、大手運用会社が引き続き有利な立ち位置にあるという。
ホール氏によれば、同氏のチームが調査したランキング内の米国以外の運用会社76社のうち、約4分の3が昨年テクノロジーやビッグデータ、サイバーセキュリティなどへの投資を増やしたとのことだ。
とは言え、これまでもそうであったが、大手業者の対極として、小回りの効く専門的なブティック型マネジャーにも活躍の場は残されている、とホール氏は指摘した。
450億ドルほどのAUMを擁するグローバルCIO業務受託型運用会社であるパートナーズ・キャピタルで、シンガポールを拠点にアジア太平洋地域の共同責任者を務めるエマニュエル・ピツィリス氏は、プライベートエクイティやヘッジファンドといった市場セグメントにおいて、「大規模なファンドとの取引も引き続き行ってはいるものの、我々の関係先の大半は小規模で運用者自身がオ―ナーのファンドであり、その資産規模は10億ドル未満であることが多い」と語った。
ワン・ストップ・ショップ型のスーパーマーケット・モデルが今後も継続すると予想する業界関係者もいる。
「顧客の為には幅広いソリューションを用意しておく必要がある。さもなければ顧客を失うリスクを負うことになる」とプライスウォーターハウスクーパース(PwC)でダブリンを拠点にグローバルアセットとウエルスマネジメントの責任者を務めるオルウィン・アレキサンダー氏は語った。
同氏によると、例えば、パッシブ運用を避けてきたアクティブ・マネジャーは、ワン・ストップ・ショップ・マネジャーとしてパッシブ運用能力を求めている顧客を失うリスクがあるという。
2022年に出現したより不安定で不確実性な環境においては、ESGのように急成長している分野で顧客の要求や期待に応えることができる運用会社が競争優位に立つ可能性が高い、とアレキサンダー氏は述べた。さらに、トップラインの収益が伸び悩んでいる運用会社はESG関連に傾注することによって、上手くいくようになると同氏は付け加えた。
250社の資産運用会社と250の機関投資家への調査に基づいた10月10日付のPwCのレポートによると、ESG関連のAUMは2026年まで年率12.9%で成長することが予想されている。この成長率は、同社が業界全体のベースケース・シナリオで仮定した4.3%の3倍である。
「ESGは求められており、持続性も定着しているのが現実だ」とホール氏は同意した。そして、この点での革新は、投資がもたらすインパクトを報告できるようデータの確保に対応した運用会社が着目されるだろう、と同氏は述べた。
ESG関連の目標に対する興味や信頼について、米国と欧州のアセットオーナーの間にあった格差の大きさが米国側が概ね埋める形で、縮小してきていることが、PwCの調査に関する驚きの一つである、とアレキサンダー氏は語った。
これら調査結果について同氏は、米国のアセットオーナーの81%が向こう2年の内にESG関連のアロケーションを引き上げるとしており、これは欧州のアセットオーナーの83%より若干少ないだけだ、と指摘している。「欧州の方がずっと先を行っている、と今までいつもいってきた」が、2年前や3年前と比べても、米国においてESGに対するセンチメントや需要が確実に高まってきている、と同氏は付け加えた。
しかし米国においては今年、政治的な理由でESGに対して後退を迫る動きがあった。ホール氏やアレキサンダー氏によると、運用会社の気候変動方針が地元の石油・ガス関連の利益と衝突すると見做される場合には、公的年金基金の資金を引き上げる、として地元の政治家が脅迫しているという。公的年金のマンデートを失う可能性に瀕している運用会社に関して、ホール氏は「自分の信念に対する勇気を維持しながら、いかにステークホールダ―を幸せにするか」が挑戦であると語った。
今後5年間の低成長環境下で、PwCが薦める比較的魅力的な投資機会としては、オルタナティブとパッシブ運用の分野があり、AUMの増加は複利年率で前者が5%以上、後者は7%が期待される、とアレキサンダー氏は述べた。
北米は11.7%上昇
当社とTAIによる、その他の調査結果としては、北米を本拠とする運用会社は昨年、AUMを11.7%増やして78兆9,000億ドルとし、トップ500社のAUMの59.9%を占めた。
英国を含む欧州の運用会社は4.1%増加して36兆2,000億ドルとなった。一方、米ドルに対する11.5%の円安の影響で、日本の運用会社はドルベースのAUMを1.1%減らし6兆1,000億ドルとした。中国の運用会社がほとんどを占める、その他の範疇では、AUMが32.4%伸びて10兆5,000億ドルとなった。
TAIのレポートによると、過去10年にわたって米国と中国の運用会社が最も大きな市場シェアを獲得してきた。
2021年末時点ではトップ500社の運用資産のうち、54.7%を米国の運用会社が占めており、10年前の47.8%から上昇している。一方、中国の運用会社は2011年末のわずか0.3%から4.2%へと急増している。スイスや韓国を含むその他の数か国で若干の増加が見られるが、その他リストされている13か国の内12か国で、トップ500社に占めるシェアが10年間で減少している。
直近の5年間においては、中国の運用会社が相対的に強い勢いを保っており、昨年の中国株の弱気相場に係わらず、AUMのシェアは1.9%から4.2%へと倍増した。一方、米国の運用会社は53.5%から54.7%へと控えめな伸びであった。
この5年間で中国の運用会社は、ローカル通貨ベースのAUMを年率27.3%上昇させた。これは、米国運用会社の10.7%に対して倍以上であり、ノルウェー(23.4%)とインド(23.3%)のみが僅差であった。
一方、トップ500社の平均的アセットアロケーションは、株式が46.5%、債券が33.9%、現金とオルタナティブで12.5%、そして、その他投資が7.1%であった。