執筆者:パラ―・ゴーシュ
投資コンサルタントは、ますます厳しさを増す投資環境にアセットオーナーである顧客が対処できるよう、助言やガイダンスに身を粉にして働いており、一方、一部ケースでは彼らの助言資産残高をも減少させている。
当社の直近の調査結果によると、投資コンサルタントの機関投資家向け助言資産総額は、2022年6月30日時点で46兆8,500億ドルとなり、前年同期の47兆1,400億ドルと比べると0.6%減少した。同期間に米国機関投資家の非課税助言資産残高は、若干上昇して27兆1,000億ドル(2.7%増)となった。
ノースカロライナ州シャーロットを拠点に、ウイリス・タワーズワトソンの投資部門北米責任者を務める二ミシャ・スリヴァスタヴァ氏によると、同氏が担当する顧客は総じて、米国経済が高金利に耐え、成長を維持できるかを懸念しており、また同様に景気の減速或いはリセッションの可能性も心配している。それは、経済成長にとって長期的に影響を与え、資産価格とボラティリティの両方にマイナスのインパクトをもたらすからだ。さらに、これらの要因がアセットオーナーのリターンや戦略的目標を未達に終わらせる恐れもある、と同氏は指摘した。
顧客の最近の注目点は「目標リターンは、今後どこで確保していったら良いか(中略)引き締めが続く世界的金融状況や下方リスクの負の歪みといった環境下で、どのような選択肢があるのか」などである、と同氏は述べた。
ウイリス・タワーズワトソンは分散投資の「強力な支持者」である、とスリヴァスタヴァ氏は強調した。
「不確実性の高い時には、ポートフォリオの回復力をより高めるためにアセットオーナーは既存ポートフォリオに追加が可能な戦略を評価・検討する必要がある、と我々は引き続き考えている」と同氏は語り、「当社では今年、実物資産とヘッジファンド戦略を特に注視している。市場の動向を踏まえて、アセットオーナーはオルタナティブ・クレジットへの資産配分を追加または増やすべきであると、足元で強く主張している」と述べた。
オルタナティブ・クレジットは、キャリーが大きく低デュレーションの特性を持つため、債券分野の「強力な選択肢」だと同氏は述べ、「今後、強力なリスク調整後リターンをもたらすポテンシャルがあると当社では見ている」と付け加えた。
同様にスリヴァスタヴァ氏は、「実物資産のエクスポージャーは、収益源の分散化だけではなく、インフレヘッジの恩恵も顧客ポートフォリオにもたらした。プライベート・クレジットも同様であり、特に変動金利の性格を有する一定のレンディング戦略は、同じ恩恵をもたらす」と指摘した。
ウイリス・タワーズワトソンの全世界の機関投資家向け助言資産残高は6月30日時点で昨年の同期より30.6%増加して4兆7,000億ドルとなり、P&Iデータベースによると世界第3位の大手コンサルタントとなった。スリヴァスタヴァ氏によると、助言資産残高の増加は「成長と新規顧客拡大の組み合わせ」と「顧客ポートフォリオの分散」に起因している。
マクロの最重要課題
同じようにインフレ率や金利の上昇が、シーガル・マルコ・アドバイザーの顧客であるアセットオーナーにとっても、マクロの最重要課題である、とニューヨーク拠点のシニア・バイスプレジデント兼最高投資責任者(CIO)を務めるスー・クロッティ氏は述べた。
「これらの要素は、顧客のポートフォリオ全体に影響を与える」と同氏は語り、「不動産やインフラストラクチャーのような一部の実物資産クラスを除くと、その他資産はほとんど(今年)二桁のマイナスとなっている」と続けた。
年初から11月14日まで、ラッセル3000指数は16.7%の下落、一方、ブルーンバーグ米国総合債券インデックスは14.3%下落した。
株式と債券は前年まで、負の相関関係にあったが、今年、クロッティ氏が「異常な」そして「二重苦」と述べるシナリオのなかで、この関係は消失してしまった。
しかし、顧客に対しては、慎重かつ保守的な対応で乗り越えるようにアドバイスしている、とクロッティ氏は語った。
「2年前を思い起こして下さい。一部の投資家は、ビットコインのような暗号資産(仮想通貨)が非相関資産クラスとして、次の投資の波になると、魅惑されたのです」と同氏は指摘した。「その後、仮想通貨に何が起きたかはご承知の通りです」と付け加えた。
シーガル・マルコ・アドバイザーの全世界の機関投資家向け助言資産残高は、6月30日時点で3,818億ドルとなり、昨年より5.5%減少している。クロッティ氏によると、市場の下落が資産残高減少の主な要因だ。
メケタ・インベストメント・グループでは、定期的に資産配分方針を顧客と共に点検している。「今年の新たな出来事とは、インフレや金利の上昇が将来の期待リターンに対してインパクトをもたらしたことだ」と、サンディエゴを拠点にメケタのマネージング・プリンシパル兼共同最高経営責任者(co-CEO)を務めるスティーブン・P・マッコート氏は語った。
「2022年に経験した市場のボラティリティやダイナミクスをしのげるように」、バランスのとれた戦略的アセットアロケーション方針を採用するよう顧客にアドバイスしている、とマッコート氏は電子メールで述べた。
メケタの機関投資家向け助言資産残高は、6月30日時点で2.8兆ドルと1年前より4%増加した。
債券の再検討
コロラド州ブルームフィールドを拠点にウィルシャー・アドバイザーズのマネージングディレクターを務めるトーマス・トス氏は、顧客に対して低イールドや非対称リスクを理由にコア債券への投資を控えるようにアドバイスしてきたが、金利上昇環境や債券の期待リターン上昇を受けて、今では債券のポジションを再検討することを勧めている。
「我々は今、債券に対してより前向きだ。一般的に、債券はポートフォリオに安定と流動性を提供してきた。現在、顧客の一部、特にプランスポンサーと、債券エクスポージャーの再検討を話し合っている」と同氏は述べた。
ウィルシャーの6月30日時点における全世界の機関投資家向け助言資産残高は、前年比3.2%減の1兆500億ドルとなった。
トス氏と同じく、シーガル・マルコのクロッティ氏も債券に強気だ。「債券の実質リターンは、今や非常に魅力的だ」と同氏は述べる。「債券の利回りは、ここ数十年で最も高い水準にある」。
実際、11月14日時点で投資適格債の最終利回りは約4.78%、ハイイールド債の利回りは約8.84%となっている。
インフレ率が低下すれば、この利回りを確定しておくことは、特に貯蓄者や退職者にとっては良い投資となるかもしれない、と同氏は付け加えた。
アトランタを拠点とするマーサー・インベストメンツのパートナー兼米国投資のリーダーを務めるジェイ・ラブ氏も、この意見に賛成だ。「このような高い利回りを考えると、債券、特に満期まで期間の長い債券に投資することは、理にかなっている」と同氏は語った。
当社データベースで、最大のコンサルタントであるマーサーは、6月30日時点の全世界の機関投資家向け助言資産残高が5.2%減って16兆4,500億ドルになったが、ラブ氏はその主因は市場の下落だとしている。
サンフランシスコに本拠を置くカランのCEO兼チーフ・リサーチ・オフィサーであるグレッグ・アレン氏は、債券の将来リターンが金利上昇のおかげで、この1年ではるかに良くなったと感じている。「当社の顧客は、このことを長期計画のプロセスに組み込み始めたばかりだが、最初の反応は、あまりリスクを取らなくても長期的なリターン目標が達成できそうだという認識だった」と同氏は語った。
しかし、「これが長期戦略目標における債券の配分を増やすトレンドとなるかを判断するには時期尚早だ」と同氏は述べた。
当社ランキングで2番目の大手コンサルティング会社であるカランは、6月30日時点の助言資産残高が前年比48.76%増の4兆7,900億ドルに急増したが、アレン氏は「非常に大きなプランを顧客として、いくつか獲得したため」と電子メールで説明した。
しかし、同氏は「長期契約型とプロジェクト型の両方で超大型プランを扱う投資コンサルタントには、こうした助言資産残高に関する年ごとの変動がつきものだ」とも付け加えた。
同社は新規顧客の名前は明かさなかったが、当社は、昨年10月、7,430億ドルの退職貯蓄プランを管理するワシントンD.C.の連邦退職貯蓄投資理事会が、他の4社とともにカランを採用し、投資方針の評価と設計、ポートフォリオ・ガバナンスとポートフォリオマネージャーの評価、投資選択肢のレビューと評価、投資マネージャーの調査など、いくつかの分野で理事会がサポートを受けることになったとレポートしている。
60/40への回帰?
シーガル・マルコのクロッティ氏は、伝統的な株60/債券40の資産配分が復活する可能性もあると考えている。
「ここ数年は、オルタナティブ資産へ資金が流れていたので、60/40のポートフォリオは実質的には存在しなかった。しかし、オルタナティブ資産への配分は目標をすでにオーバーしているので、今後数年間は資産の流入はあまり見込まれないだろう。そのため、伝統的な株式や債券への回帰が見られるかもしれない」と同氏は語った。
ウィルシャーのトス氏も、公的・私的年金基金を含む多くの顧客がプライベート・マーケットのような非伝統的資産クラスへの配分を増やしているため、これらのポジションが一部のポートフォリオでは、オーバーウェイトになっているのではないかと心配している。
「我々は、プライベート資産が投資ポートフォリオの貴重な一部であると考えてはいるが、『分母効果』を考えると、ターゲットに対してプライベート資産が多すぎるリスクがあると認識しており、そのリスクを回避するための手助けをしている」と同氏は述べた。
このリスクは、「プライベート・エクイティ、クレジット、および実物資産のポートフォリオにコミットするペースを、全ファンドの時価総額の低い方に合わせて調整する」ことで管理できると、トス氏は説明した。しかし、「我々は、ストップ・アンド・ゴーのアプローチを避けるために、コミットメントを劇的に減らすのではなく、市場のボラティリティを利用して調整することを推奨している」とも付け加えた。
連邦準備制度理事会(FRB)が(インフレ率が明らかに低下する限り)来年中には利上げサイクルを終了すると予想される中、現在の危機を乗り越えれば、トンネルを抜けた先に光が見えるかもしれない、とトス氏は語った。
「歴史的に見ると、経済状況がまだ比較的悪いときに市場は上昇し始めるもので、これは顧客にも知っておいてもらいたいことだ。このことを踏まえ、ポートフォリオのリバランスを積極的に行い、市場の上昇に備えて、リスクを適切に追加する機会をうかがうことを提案している」と同氏は述べた。
例えば、グローバル株式への傾斜を強めるとか、小型株へ移行する、あるいは投資適格以下の債券への追加配分を行うなどが考えられる、とトス氏は指摘した。
OCIOの傾向
マーサーのラブ氏によれば、アウトソースド・チーフ・インベストメント・オフィサー(OCIO)サービス(資産配分の決定から運用戦略の投資実行までを、外部の専門家に包括的にアウトソースするサービス)に対する需要が、市場の低迷やボラティリティの高まり、投資対象証券の複雑化などにより高まっているとのことだ。しかし、同氏は、この需要の高まりが、極めて大きいとまでは言えないと指摘した。
「需要の急増は見られないが、このような状況下でどのように対処するかについて、顧客と議論することが増えた」と同氏は述べた。
当社のコンサルティング調査では、マーサーは6月30日時点の運用資産残高が3,457億5,000万ドルで、前年比12%減となった。
カランのアレン氏は、ここ数年、OCIOサービスに対する需要は「かなり安定している」と述べた。「最も顕著な変化は、5〜7年前にこのモデルの採用を決定した顧客が、アウトソース先の変更を検討するために再び市場に出てくるという、更新機会の増加であろう」と述べ、「もう一つの変化は、今年に入って、顧客が直接アウトソース先の選定を行うのではなく、第三者の調査会社に依頼するケースが増えていることだ。これは、こうした意思決定に伴う複雑さを反映している」と付け加えた。
アレン氏はまた、「多くの場合、契約関係の入札が、投資一任契約の場合と投資助言契約の場合の2パターンで求められることが増えた。この場合、顧客は2つのガバナンスモデルのメリットを比較評価するために、RFPプロセス(提案依頼書による評価)を利用しているようだ」と付け加えた。
カランの6月30日時点の運用資産残高は、前年比2%増の55億3,000万ドルだった。