執筆者:トリルベ・ウィン
株式市場やリスクオンの債券が好調だった高リターンの1年で、当社年次サーベイ参加の運用マネジャーがインデックス運用している資産額は、世界全体で35.9%増加し、6月末時点で20兆8,700億ドルとなった。
この額は1年前のパッシブ戦略運用残高15兆3,500億ドルから大幅に増加した。
ブラックロック、バンガード・グループならびにステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)が、引き続き当社ユニバースにおける運用資産の大半を占めている。ブラックロックのインデックス運用AUM(運用資産残高)は33%増の6兆2,900億ドルに、バンガードのパッシブ運用AUMは36.8%増の6兆2,500億ドルに、SSGAのインデックス運用AUMは、6月末時点で3兆2,800億ドルと前年比31.3%増となった。
フィラデルフィア所在のウイリス・タワーズワトソンでインベストメント部門のシニアディレクター兼ポーフォリオマネジャーを務めるジョン・デラニー氏は、コロナ危機の発生を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)や世界各国の中央銀行が積極的な市場支援を表明した際に、投資家は慎重ながらもリスクオン姿勢を取り、そのセンチメントは2020年末まで続いたと、述べた。
「株式のベータ、クレジットのベータへのエクスポージャー、インデックス資産、ETF(上場投資信託)のいずれであれ、何らかのリバウンドを取るための手っ取り早い方法であり、また中央銀行が創り出した緩和環境を(2020年の)第2、第3および第4四半期を通じて利用する方法であった」と、同氏は述べた。
投資家の多くがリバランスによってベータ・エクスポージャーを取り込む一方、S&P500インデックスに連動する戦略や、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)のインデックス戦略、そしてハイイールドやフォールン・エンジェル(投資適格から格下げされた社債)インデックスといったリスクオンの債券ベータ戦略は2020年通年で好調だったと、デラニー氏は述べた。
当社サーベイの期間で見ると、6月末までの1年間でS&P500インデックスのトータルリターンは40.8%となり、一方、同期間でMSCI ACWIインデックスは39.9%、米国を除くMSCI ACWIインデックスは36.4%、ブルームバーグ米国ハイイールド社債インデックスは15.4%のリターンとなった。
米国株は55.1%の増加
米国株のインデックス運用資産額は、6月末時点で11兆1,900億ドルとなり、前年比で55.1%、5年前対比では151.7%の各増加となった。海外株式のインデックス運用資産額は、前年比で35.7%、5年前対比で95.8%各々増加して3兆7,300億ドルとなり、一方、米国債券のパッシブ運用資産額は前年比18.4%、5年前対比で各々91.6%増えて2兆5,800億ドルとなった。
ベータ商品は「機関投資家が2020年3月にみられたようなドローダウン期間から、より早い回復を可能とするエクスポージャーを速やかに取得する上で極めて重要であり、実際に回復期にリターンを軌道に乗せることが可能となった」とデラニー氏は述べた。投資家は2020年末までパッシブ運用資産を引き続きオーバーウエイトしたが、2021年に入りセンチメントはやや変化したと、同氏は付け加えた。
「我々は、2020年通年ならびに2021年初頭にオーバーウエイトしていたベータ・エクスポージャーをポートフォリオからややシフトさせ、幾分スキルを要する戦略を加えた。従って、2020年からの資金フロー表を見れば、2020年の第2・3四半期にはインデックスやETF商品への多額の流入が、また2021年に入るとそういった資産から投資家が導入を検討しているアクティブ色の強い運用や専門性の高いエクスポージャーへのシフトが見られたであろう」とデラニー氏は述べた。
一方、バンガードはパッシブ投資が引き続き伸びる余地があると見ている。
ペンシルベニア州マルバーン所在でバンガードのETFとインデックス運用の責任者を務めるリッチ・パワーズ氏は次のように語った。「インデックス運用の概念は、ほとんどの投資家がポートフォリオを構築する上で適切な出発点であると現在は概ね広く認識されているが、まだ理解を深める余地があると楽観している。未だに顧客資産の多くが手数料の高い、アクティブ運用のミューチュアルファンドに振り向けられているが、低コストで市場エクスポージャーを取ることができる広範な市場ファンドに投資することで恩恵が得られる。特に債券のインデックス運用については、まだ採用の初期段階にあると考えている」。
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が公表する2021年年央SPIVA米国スコアボードのデータによれば、アクティブ中期投資適格債券ファンドの大半は、6月末までの1年間でブルームバーグ米国政府/クレジット中期債券インデックスをアウトパフォームし、ベンチマークをアンダーパフォームしたファンドは15%未満だった。しかしながら、アクティブ運用のハイイールド債券ファンドは、そのうちの65%近くがブルームバーグ米国ハイイールド社債インデックスを絶対リターンベースで下回った。
株式では、アクティブ運用の米国大型株ファンドの58.2%が、6月末時点でS&P500インデックスを絶対リターンベースで下回っており、アクティブ運用の海外株式ファンドの64%が6月末までの1年間で、S&Pインターナショナル700株式インデックス(除く米国)をアンダーパフォームしている。
ETF採用の拡大
債券ETFの採用は2020年春の危機時期以降増加を続けており、債券市場に於ける歴史的な流動性の低さにもかかわらず、投資家はETFによって希望通りの債券エクスポージャーを得ている、とパワーズ氏は述べた。同氏によると、バンガードに於ける債券サイドの資金フローのうち、約60%がミューチュアルファンドではなくETFに流入した。
「キャッシュフローの面で、債券ETFは今年も記録を更新する見通しだが、株式ETFへの資金フローはそれをはるかに凌駕している。株式市場のリターンが上昇傾向にあったことからすれば当然の事だ」と同氏は語った。
同氏によると、バンガードでは株式へのキャッシュフローの約95%が、インデックス型ミューチュアルファンドではなくETFに流入しており、S&P500インデックスやトータル・マーケットETFなどの市場全体をカバーする株式戦略のシェアが最も高い。
「低コストで広範な市場をカバーする株式戦略が引き続きETFの圧倒的なトレンドとなっている」と、パワーズ氏は指摘した。
最大手ETF運用会社
ブラックロックは引き続き2021年もETFおよびETN(上場投資証券)で運用されるインデック資産の世界最大の運用会社であり、これらの戦略における同社の運用資産額は32.5%増加し、6月末時点で3兆200億ドルとなった。ニューヨーク所在のブラックロックでマネージングディレクター兼iシェアーズ商品およびインデック投資事業の責任者を務めるキャロリン・ワインバーグ氏によれば、機関投資家が採用するケースが増え続けているという。
「これまでユーザーではなかった当社の機関投資家顧客がETFのユーザーとなった理由は2つあると考えている。1つは流動性で、もう1つは取引コストだ」と同氏は述べた。
投資マネジャーや機関投資家は、2020年の債券市場に於ける流動性危機の最中には自らの専門知識やニーズを反映していた債券ETFを購入したが、ETFの利用は年間を通して拡大したのだった、と同氏は指摘する。
「したがって、過去あるいは昨年に1本のETFしか利用したことがない場合でも、今年は当社ETFを10本あるいは20本利用している顧客もいる。これは極めて喜ばしいことだ。また素晴らしいことに、売りと買いの両方を行っているケースもある。まさしくそれが流動性にとっても、また取引コストにおけるアルファにとっても重要な点なのだから」とワインバーグ氏は付け加えた。
バンガードが2021年も引き続きETFおよびETNの世界第2位の運用会社であり、2021年のこれらの運用資産額は55.9%増加し1兆8,400億ドルとなった。また、SSGAは第3位を維持しており、運用資産額は42.1%増え、6月末時点で1兆400億ドルとなった。
当社データによると、ETFおよびETNで運用される世界全体のインデックス資産残高は成長を続けており、2021年は42.1%増加し6兆8,200億ドルとなった。6月末までの5年間では、ETFおよびETNによるパッシブ運用資産額は191.2%増加した。
CITへのインデックス資産の追加
ペンシルベニア州マルバーンを拠点とし、バンガードの投資ソリューションの責任者を務めるジェームズ・マーティエリ氏は、インデックスをベースとしたETF戦略の採用がアドバイザーや個人投資家によって増加しているが、確定拠出年金や大手機関投資家は合同運用信託(CIT)の利用を拡大しており、インデックス運用をCIT内での主要なラインナップとして利用していると述べた。
税務上のメリットや継続的取引といったETFの本質的な特徴は多くの投資家にとって魅力的だが、投資期間が長期におよぶ確定拠出年金にとっては同じように魅力的ではない、と同氏は指摘する。
同氏によると、米国の株式、米国以外の株式、および米国の債券に対して幅広く低コストのエクスポージャーを、ミューチュアルファンドよりも低コストで提供できるインデックスファンドを「中核層」に組入れたCITは、プランスポンサーにとって魅力だったという。さらにマーティエリ氏は、バンガードが記録関連業務を代行しているDCプランのうち67%が、現在インデックスファンドを中核層に組入れているCITを提供しており、10年前の44%から増加したことを付け加えた。
バンガードは企業として合同運用信託へのアクセスを拡大している、と同氏は語り、ターゲット・デート・ファンドCITの最低投資金額を2億5,000万ドルから1億ドルに引き下げたと指摘した。
「そして、当社は、CITへのアクセスをそのほとんどが非営利団体である403(b)プランへ拡大する超党派法案に関して初期からの支持者であり、そうした内容が年金改革を目的とするSECURE Act 2.0法案に含まれていることを心強く思っている」と、マーティエリ氏は述べた。
一般的にCITは、現在403(b)プランの投資先として限定されているタイプの年金契約やミューチュアルファンドよりもコストが低く、柔軟性が高い。
経費率以外の微妙な違いも、プランスポンサーをミューチュアルファンドからCITに向かわせる要因となっている、とマーティエリ氏は指摘した。
「外国株式ファンド、特に直接投資を行うファンドは、より有利な源泉徴収税措置の恩恵を受けることが可能であり、それは多くの場合、ベーシスポイント(bp)レベルの経費率の違いよりも大きい。そして、当社は顧客から証券貸出の透明性に関する質問や、証券貸出により実際に収入を得るのは誰か、どのようなリスクを取っているのか、といった多くの質問を受けている」と同氏は述べた。
バンガードは当社ランキングで米国最大の確定拠出プラン・インデックス運用会社であり、確定拠出資産運用額は年間32.71%増加し、6月末時点で1兆4,200億ドルとなった。同社の世界全体のインデックス資産運用額の61%を占めるミューチュアルファンドは年間27.1%増加し、6月末時点で3兆8,000億ドルとなった。2006年に当社の調査が開始されて以来、バンガードがインデックス型ミューチュアルファンド資産の最大の運用会社となっている。