執筆者:アーリーン・ジャコビウス
サクラメントを拠点とし運用資産額4,796億ドルを擁するカリフォルニア州職員退職年金基金(以下「カルパース」)の最高投資責任者(CIO)として3月28日に着任するニコル・ミュージコ氏は、いくつかの人事面の課題に直面することになる。それらはとりわけ投資部門トップの空席を埋めることと、13名の理事のうちすでに3名が空席となっており、さらに年末までに2名が退任予定となっている理事会への対応という課題だ。
カルパースは2月22日、1年半に及ぶ採用活動の末にミュージコ氏をCIOに選出したと発表した。
そうした課題を抱えながらも、カルパースは5%のレバレッジを組み込んだ新資産配分の実施を間もなく開始する。11月に採択されたこの資産配分は、600億ドル近い資産をオルタナティブ投資に配分するもので、内容としては新たにプライベート・デットへ5%配分するほか、プライベートエクイティへの配分を5%増やし13%へ、また実物資産への配分を2%増やし15%とするものだ。
カルパースがこの新資産配分に踏み切るのは、この度引き下げられた新たな期待収益率の6.8%を達成するためだ。11月15日に開催された投資委員会での報告によれば、従来のレバレッジを含まない目標資産配分でのリターンは6.2%にとどまった。
新資産配分の実施計画は3月14日の理事会に提示される予定で、新資産配分は7月1日に効力を発生する。
現在トロントに住むミュージコ氏は、新型コロナウイルスのためにサクラメントへ行ってカルパースの執行部や同氏の新たなスタッフと何度もミーティングを持つことはできなかったが、一度だけカルパースの理事会や直属の部下何名かに会う機会があったとインタビューで述べた。
現在同氏は、ニューヨークを拠点とするスポーツメディアに特化したプライベートエクイティ投資会社、レッドバード・キャピタル・パートナーズのパートナーとして、インパクト投資およびダイバーシティ投資への取り組みとカナダ国内でのビジネス展開を主導している。
カルパースには非常に優秀な理事会や強力な投資担当幹部がおり「とてつもない才能が集積している」とミュージコ氏は述べた。とは言うものの、13人の理事会メンバーが入れ替わってきた現状も同氏は見てきている。
CIOの候補者選びで同氏や他の候補者を面接した理事会のサブグループ・メンバーの内、ヘンリー・ジョーンズ理事長と、ギャビン・ニューサムカリフォルニア州知事が任命したステイシー・オリバレス氏の2人は1月に辞職した。さらに同グループの3人目の理事であるジェイソン・ペレズ氏(選出メンバー)は6月に退任した。
加えて、1月に副理事長に選出されたロブ・フェックナー氏は1999年から理事を務めており、2023年1月15日の任期満了に伴う再任選挙には立候補しない見込みだ。さらに、職権に基づきカルパースの理事を兼務するカリフォルニア州会計監査官のベティ T. イー氏は、最終任期である2期目の最後の年となっている。その一方、2015年から理事を務めている新理事長のテレサ・テイラー氏は再選を目指す見込みだが、同氏の現在の任期も2023年1月15日に期限を迎える。
「カルパースの歴史上、最も多くの理事が入れ替わることになる」と、CEOのマーシー・フロスト氏は語っており、同年金制度では新理事がスムーズに職務に就けるよう研修プログラムを導入していると指摘した。
空席
ミュージコ氏の上司はフロスト氏ということになるが、カルパースのCIOは投資に関する事項を定期的に理事会に報告することになっており、2020年8月に前CIOのユー・ベン・メン(孟宇)氏が辞任した後は、ガバナンス上の変更の一環として、CIOの採用と解任についてはCEOと理事会が共同で行うことになっている。
新理事への対応に加えて、ミュージコ氏は投資部門の欠員も埋めなければならない。その中には、3席ある副CIOポジションのうち、インカム資産担当とグロース資産担当の2つの副CIOポジションが含まれている。また、全ポートフォリオ担当の暫定副CIOを務めていたアーニー・フィリップス氏が、債券部門のマネージング・インベストメント・ディレクターに復帰する予定となっている。
2年近く暫定CIOを務めてきたダン・ビアンヴニュ氏は、元のポジションである全ポート担当の副CIOに戻る。
ビアンヴニュ氏が暫定CIOを務めるあいだに、カルパースはレバレッジを資産配分に組み込み、プライベートエクイティやプライベートクレジットに対する資産配分を増やすというメン氏の意欲的な計画を続行した。
カルパースの資産配分にレバレッジを加え、オルタナティブ投資に対するエクスポージャーを拡大することは、同年金制度の期待収益率を達成するため必要なことであり、賛成だ、とミュージコ氏は述べた。
新資産配分を実施するにあたり、同氏は自ら採用する多くのスタッフと共に働くことになる。広報担当者メーガン・ホワイト氏の電子メールによる回答によれば、1月31日現在、投資部門には34名の空席があり、空席を含めた同部門の総職員数は330名だと述べた。
メン氏がカルパースに入社したとき、プライベートエクイティと債券の各責任者を含め25名の投資スタッフを補充する必要があった。
また、ミュージコ氏の課題リストには、理事会のガバナンスとサステナビリティを担当する常任のマネージング・インベストメント・ディレクターの指名も含まれている。1月にアン・シンプソン氏がフランクリン・テンプルトンのサステナビリティ投資のグローバル責任者に就任するためカルパースを去ったため、金融市場担当の投資マネジャー、ジェームズ・アンドラス氏が暫定的に同ポジションに指名された。
このポジションには以前シミソ・ニズマ氏が就いていたが、このポジションに就いていたことのあるビアンヴニュ氏の後任として、10月にグローバルエクイティ担当マネージング・インベストメント・ディレクターに昇進した。
任期5年
カルパースでも投資担当幹部の転職は珍しくなく、米国最大の公的年金基金で働いた後に民間のキャリアをスタートさせる者もいる。例えば、CIOとしての在職期間が6年と近年で最も長かったシェリル・プレスラー氏は2000年1月に退職し、民間企業に移った。
在職期間が最も短かったCIOは、2001年11月に16カ月で辞任したダニエル・M・ゼント氏である。またメン氏はカルパースのCIOをわずか18カ月務めたあと、開示資料に記載されていた個人で保有する株式について疑惑が持ち上がり辞任した。
カリフォルニア州の公務員であるカルパースの職員に雇用契約はないが、ミュージコ氏によると、理事会とフロスト氏は、現在のCIO職が「5年の任期」であると考えていることを明確にした。 CIO職はマラソン的なアプローチで臨む職務であり、プライベートマーケットの直接投資チーム構築などの職務のように「全力疾走で駆け抜ける」ことはできない、と同氏は考えている。
確かに、カルパースの期待収益率を実現するためには人材がカギになる、と同氏は語った。現投資スタッフは「整備が行き届いた機械」なので、同氏はオルタナティブ投資など特定の分野に「傾注」するつもりでいると述べ、「人材周りに時間をかける予定だ」と付け加えた。
有能な人材を維持する最善の方法は、多様性が賞賛され育まれるような革新と協働の文化を創造することだ、とミュージコ氏は述べた。それはより包摂的な文化につながるだけでなく、人々が目的を持ち「朝、エレベーターで上がるのが楽しみだ」と感じる職場にもつながる、と同氏は語った。