執筆者:マルガリーダ・コレイア
確定拠出退職年金基金(DC)の資産は、ほぼすべて株式市場上昇のおかげで、昨年、年末残高の最高記録を更新した。
弊社が実施している米国における機関投資家向け資産運用会社の年次サーベイによれば、2020年末で米国の非課税機関投資家資産は、2019年末の7兆9,400億ドルから8兆8,800億ドルへと11.9%上昇した。
内部運用によるDC資産の上昇は更に大幅で、14.7%急増し7兆9,500億ドルとなった。
力強い成長は、昨年を通じて新規資金流入の障害となったパンデミックの影響がなければ、更に大幅だったであろう。新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う昨年の市場ボラティリティ上昇の結果、プラン参加者は各々の退職年金プランから資金を引き出すか、継続しても追加拠出をしないかになったと、業界筋は言う。
「最大の資産増加要因は資産価格の上昇であり、実際にネットの資金流入は、新型コロナウイルスの影響で控えめだった」と、ミズーリ州セントルイス所在のバック・グローバルでプリンシパル兼ウェルス・プラクティス分野のコンサルタントを務めるジム・ダナハー氏は述べた。
PGIM(プルデンシャル・ファナンシャルの資産運用部門)の株式およびマルチアセット・クオンツ運用専門子会社であるQMAで、ケンタッキー州レキシントンを拠点に、DCソリューション・グループのマネージング・ディレクター兼退職年金リサーチの責任者を務めるデビッド・ブランシェット氏も、退職年金基金からの入出金は過去5年間ないし10年間は「だいたい」同じであるとした上で、ネットの新規資金流入はほとんど目にしていないと述べた。昨年の資産フローについて「ネットでの大きな変化」は見ていないとし、「コロナ危機がなければ、ネット資金流入額はもっと増えていただろう」と付け加えた。
一部の観測筋は、パンデミック発生時に、困窮による基金からの引き出しが増加したと指摘した。「CARES法(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法)の下で引き出し方針が緩和されたため、多くの基金では2020年の第1四半期ならびに第2四半期に、支払が大幅に活発となった」とダナハー氏は述べた。
弊社サーベイで指摘されたDC総資産の11.9%上昇は、市場全体のリターンに沿ったものだった。ラッセル3000指数によって計測される米国株式、MSCIオール・カントリー・ワールド(除く米国)指数で計測される米国以外の株式は、2020年にそれぞれ21%および11%上昇した。一方、ブルームバーグ・バークレイズ米国総合債券インデックスで計測される債券は7.5%上昇し、FTSE世界国債インデックス(除く米国)で計測される米国以外の債券は10.8%と大幅な上昇を見せた。
株式はDC資産で最大の比率を占める。DC運用会社上位100社では、社内で運用している株式が全資産の67.1%を占めており、2019年から基本的に変わっていない。株式に次ぐ資産カテゴリーの債券は2%減少して16.8%となる一方、ステーブル・バリュー運用(元本・利息支払保証付き債券運用)は2.3%増加して8.2%となった。
上位3社は変化なし
米国における非課税機関投資家の受託資産額上位3社の運用機関、すなわち、バンガード・グループ、ブラックロックおよびフィデリティ・インベストメンツは、それぞれのポジションを守り、3位のフィデリティは節目となる1兆ドルを超え、ライバル2社の仲間入りを果たした。1兆ドル超の3社はそれぞれ2ケタの資産増加率を示し、少なくとも部分的には、引き続き人気のあるターゲット・デート・ファンド(TDF-償還期日を特定して運用されるファンド)の恩恵を受けたものとみられる。
ペンシルベニア州パオリ所在のバンガード・インスティテューショナル・インベスター・サービシーズでプリンシパル兼代表を務めるマシュー・ブランカート氏は、バンガードのターゲット・デート・ファンド事業の強さが業界をけん引していると指摘した。弊社データによれば、2020年末でバンガードが社内で運用しているターゲット・デート戦略は、7,300億ドルの米国非課税機関投資家資産を有し、追随する2位のブラックロックの2倍以上となっている。
バンガードのターゲット・デート・ファンドは「単純で、それでいて洗練された、低コストのポートフォリオ・ソリューション」を使用しているとブランカート氏は言う。
運用全体では、バンガードが2019年末比14.3%増の1兆7,400億ドルの米国非課税機関投資家DC資産を擁し、業界ランキングで首位にとどまっている。
ブラックロックは1兆2,100億米ドルで2位となり、好調なターゲット・デート・ファンドの寄与もあり15.7%の伸びを示したと、ニューヨークを拠点に、ブラックロックの退職年金グループで責任者を務めるアン・アッカーリー氏は述べた。同社のターゲット・デート・ファンドの資産残高は前年比21.5%増加して3,099億ドルとなり、ティー・ロウ・プライス・グループから同部門2位の座を奪った。
ブラックロックのターゲット・デート・プラットフォームは、フォーチュン100社の約25%を含むあらゆる規模のDC基金に利用されていると、アッカーリー氏は指摘する。「ブラックロックは1993年に最初のターゲット・デート・ファンドを設定して業界の先駆けとなり、加入者の進化するニーズを満たすべくLifePath戦略を強化することで、ユニークな実績を残している」と同氏は付け加えた。
フィデリティは3社中最大の伸びを示し、前年比20.9%増の1兆400億ドルに急増した。「2020年の市場パフォーマンスがプラス」であったことに加え、フィデリティのオープンアーキテクチャによるアプローチ、テクノロジーおよびターゲット・デート・ファンド事業が伸びに寄与したと、ボストン在住のフィデリティ広報担当者であるマイケル・シャムレル氏は文書で回答した。
弊社データによれば、2020年末でフィデリティのターゲット・デート・ファンド戦略は、前年比14.7%増の2,336億ドルの資産を擁する。
「退職貯蓄をターゲット・デート・ファンドに投資する加入者が増えていることを受けて、弊社フリーダム・ファンドは引き続き伸びている」とシャムレル氏は述べた。
同氏は、3月末でフィデリティの加入者の半分以上(56%)が401(k)プラン拠出額のすべてをターゲット・デート・ファンドに投資しており、5年前の43%から増加したと指摘した。
間違いなく、ターゲット・デート・ファンドが今後もDC資産のフローを支配するだろう。弊社データによると、ターゲット・デート・ファンドの2020年末運用資産額は2兆2,100億ドルに上り、前年比16.9%の増加、2015年の9,014億ドルの2倍超となっている。
「ターゲット・デート・ファンドは間違いなくDCで最も人気のある定番の投資であり、DC資産におけるシェアを拡大し続けると思います」と、QMAのブランシェット氏は述べた。
バック・グローバルのダナハー氏は、特に個別設定型ターゲット・デート・ファンドの成長に感銘を受けており、弊社データによれば、2020年末の運用資産額は1,658億ドルに上り、前年比25%、2015年比で74.9%の増加となっている。
「この成長の大半は巨大プランスポンサーにけん引されたものですが、ターゲット・デート・ファンドが、主要な適格定番商品としての役割からDC運用資産額に占めるシェアをますます拡大させるにつれ、この傾向がいずれ一般的になることは容易に想像できます」と同氏は語った。
手数料重視
プランスポンサーが手数料削減を図るなか、合同運用スキームや個別運用勘定もミューチュアルファンドを上回る力強い成長を見せている、と業界筋は語った。
弊社データによれば、合同運用スキームの2020年の運用資産額は前年比15.9%増の2兆7,600億ドル、また個別運用勘定の合計運用資産額は同16.3%の1兆7,000億ドルであった。一方、ミューチュアルファンドの成長率はより緩やかで、前年比12.9%増の3.28兆ドルであった。
合同運用ファンドと個別運用勘定の利用増加について、「全てはファンド経費削減の問題です。DCプランスポンサーは、特定の資産クラスに対する合同運用型ファンドストラチャー、および個別運用勘定ストラクチャーの魅力的な価格設定に惹きつけられています」とダナハー氏は語った。
ボストンを拠点とする登録投資顧問会社、キャップトラスト・ファイナンシャル・アドバイザーズ(CAPTRUST Financial Advisors)のマイケル・ボロ社長も同様の見方をしており、「合同運用ファンドの成長は、手数料を重視し受託者リスクを軽減したいと考えているプランスポンサーがけん引しています」と語った。
手数料の重視は、アクティブ運用よりもパッシブ運用が引き続き選好されていることの説明にもなる。弊社データによれば、2020年の国内株式運用残高の内、パッシブ運用が2兆2,500億ドル、アクティブ運用は2兆800億ドルだった。
昨年はアクティブ運用の方がパッシブ運用よりも成長率が若干高かったが、それでも5年間でみるとパッシブ運用の成長率を下回っている。2015年以降、パッシブ運用の国内株式資産は2倍を超える110.8%の増加となったが、アクティブ運用は54.5%の増加だった。過去1年間の成長率は似たような水準であり、パッシブ運用が15%、アクティブ運用が15.9%だった。
「プランスポンサーの多くがコストを重視していると思います。全体としての経費を下げる方法の一つが、パッシブ運用またはインデックス株戦略を選択することです」と、ブランシェット氏は語った。
同様に注目に値するのが劇的な伸びを示すパッシブ運用の国内債券残高で、前年比20.2%増の5,779億ドルとなった。一方、アクティブ運用の国内債券残高は同12.4%増の1兆2,600億ドルとなった。
「投資家が、債券でアクティブ運用よりもパッシブ運用を選択するトレンドは、われわれが過去10年間に株式ファンドで経験したトレンドと同様のものだと思います。もう一つの要因は、最大手で最も幅広く保有されているアクティブ運用の債券ファンドの多くが、2020年の不安定な環境の中でアンダーパフォームしたことです」とボロ氏は語った。
ステーブル・バリューは避難先
市場のボラティリティはアクティブ運用の債券ファンドにとって逆風であったかもしれないが、ステーブル・バリュー・ファンドにとっては追い風となり、運用資産額の堅調な増加につながった。弊社データによれば、ステーブル・バリュー・ファンドの運用資産額は、2020年に前年比で14.7%増加し4,172億ドルとなった。
「ステーブル・バリュー・ファンドが成長したのは、2020年の市場のボラティリティとあらゆる不確実性を受け、投資家が資金を移動させたことも一因だと思います」と、QMAのブランシェット氏は述べ、ステーブル・バリュー・ファンドは「短期的に資金を置く先としては魅力的です。市場の下落や、将来の景気をめぐるその他の不透明性を懸念する投資家にとって、これは極めて魅力的な選択肢です」と説明した。
資産運用会社のESG原則に基づいて運用される資産残高も堅調な増加をみせ、調査データによると2019年比30.3%増の2兆400億ドルとなった。
「ESGは明らかにDCだけではなく、全ての投資家の関心が高まっている分野です」とブランシェット氏は述べ、401(k)プランにおけるESG戦略に対する懸念は、新政権の下でいく分収まっていると指摘した。「これはまぎれもない成長分野であり、ESG原則に従って運用される資産の残高は今後も増え続けると思います」。
今後の展望
2021年も残すところ5カ月となったが、業界関係者は、市場のパフォーマンスによってDC資産の増加率が昨年を超えるだろうと、慎重ながら楽観的にみている。
「米国経済の回復、米国におけるさまざまな活動の再開、そして雇用主による従業員の再雇用などが支えとなり、DC資産は増加を続けるでしょう」と、バック・グローバルのダナハー氏は述べた。
市場の後押しも可能である。市場が協力し上昇軌道を維持すれば、それにともなってDC資産も増加する。「株式市場と債券市場が上昇すれば、DC資産も成長する」と、ボロ氏は述べた。
ブランシェット氏は、DC資産は、他のトレンドによっても市場の年間リターンを超える増加を始めるとみる。同氏は、従業員拠出額の自動増額の利用が拡大していること、および退職者を年金プランに引き止める取り組みは、全体としての資産増加に貢献するトレンドだとし、「現在起きている現象により、DCプランの運用資産が市場の上昇率以上に増加する可能性があると思う」と語った。