執筆者:マイケル・スラッシャー
最大手資産運用会社の最高投資責任者(CIO)とストラテジストは、2022年後半が投資家にとって波乱含みの展開になるだろうとの見方でほぼ一致している。
株式・債券価格の下落、長引くウクライナ戦争、新型コロナウイルスの再流行などを背景にインフレが続く中、市場は不安定な状態が続くというのが大方の予想だ。リセッションを招くことなくインフレを抑制するために、連邦準備制度理事会(FRB)は過去数十年で最も速いペースで金利を引き上げており、難しい立場にあると運用マネジャーたちは口を揃える。
労働省が7月13日に発表した6月の米国インフレ率は前年同月比9.1%の上昇と、40年超ぶりの高水準となった。
ニュージャージー州ニューアークを拠点に8,900億ドルの運用資産を擁するPGIMの債券部門で、マネージング・ディレクター兼共同CIOを務めるグレゴリー・ピーターズ氏は、同社は年初からすでに慎重姿勢だったと語った。バリュエーションが高く、グローバルに中央銀行が金融引き締めを行えば、最終的に景気後退につながると思われたからだ。
ピーターズ氏は、これまでの半年間は「我々が想定していたよりも、ずっと不安定で展開が速かった」と述べ、今年後半も前半のような展開になるとみて、慎重な姿勢を崩していない。
運用資産残高8兆4,800億ドルを擁する世界最大の資産運用会社ブラックロックの調査部門であるブラックロック・インベストメント・インスティチュート(BII)は、7月11日付レポートで同じテーマに触れており、「変動に備えよ」と述べている。BIIのアナリストは、各中央銀行はインフレが抑制されるまで利上げを続けるだろうと確信している。その間、市場は1980年代以来となる変動を見せるだろう、と同レポートは予想している。
中央銀行による金融引き締め
インベスコのチーフ・グローバル・マーケット・ストラテジストであるクリスティーナ・フーパー氏は、中央銀行による積極的な引き締めが市場を苦しめている、と6月のインフレデータが発表される前に電子メールで述べた。「欧米の中央銀行が今年後半に引き締めを緩めることができれば(彼らはFRBに追いつかなければならないというプレッシャーを感じているようだ)、資産価格をめぐる環境の改善につながるだろう。待望されるインフレ率上昇の鈍化も助けになるはずだ」と指摘した。インベスコは1兆3,900億ドルの資産を運用している。
しかし、高水準のインフレが続き、FRBが積極的な利上げを今後数カ月続けるならば、高ボラティリティは続くだろうとフーバー氏やその他の業界関係者は語った。
6月のインフレデータに関するバンガード・グループの7月13日付メモによると、FRBは25ベーシスポイント換算で12~14回相当の利上げを通年で行い、年末までに目標FF金利は3.25~3.75%に、2023年中には中立金利とされる2.5%をはるかに上回る4%以上が着地点になると、同社アナリストは予想している。
「現在の高ボラティリティの多くは、インフレ率の上昇とインフレに対するFRBの対応に起因する」と、1,670億ドルの運用資産を擁するPNCアセット・マネジメント・グループのチーフ・インベストメント・ストラテジストであるダニエル・J・ブレイディ氏は指摘した。「そして、FRBが追加利上げを一時停止できると言える状況にはないため、ボラティリティが一層高まる展開が予想される」と同氏は語った。
ロサンゼルスを拠点とし3,250億ドルの運用資産を擁するオルタナティブ資産運用会社、アレス・マネジメントの共同創業者兼執行会長であるアンソニー・P・レスラー氏は、プライベート・クレジットにとって「より困難な経済環境の時期」が到来するだろうと述べ、同社は顧客である約700のプライベート・クレジットの借り手に対し、慎重を期するよう伝えているとのことだ。
サクラメントを拠点とし、4,417億ドルの資産を擁するカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)の7月11日開催の理事会において、レスラー氏は「ここ10年から12年の間超低金利が続き、それが資産価格の高騰を招いた」と指摘し、「したがって、現在のように市場で価格の調整が進行しているときは、理事会も運用マネジャーも、クオリティをより重視することが望ましい」と述べた。
970億ドルの運用資産を擁するウィルシャー・ファンズ・マネジメントのジョシュ・エマニュエルCIOは、6月のインフレデータが発表される前のメールで、株価と金利のボラティリティは、年内高止まりの状態が続くと述べた。その際、同氏は、株式市場と債券市場は穏やかな景気後退に伴う経済リスクと業績リスクを「かなりの程度」織り込んでいると述べていた。
景気後退入りは...まだ
織り込み済みであろうとなかろうと、ほとんどの運用マネジャーは、米国経済がすでに景気後退入りしているとは考えていない。ただし、これらの運用マネジャーも、景気後退入りの恐れがあるとみているようだ。
シカゴ拠点のノーザン・トラスト・コーポレーションでチーフ・インベストメント・ストラテジストを務めるジム・マクドナルド氏は、景気後退の確率を五分五分とみる。FRBは景気後退を引き起こさないようにしながら、バランスを取りつつ、利上げによって財・サービスの価格の引下げを図るという「難しい立場に置かれて」いる、と同氏は指摘する。
1年から1年半のうちに景気後退が発生する確率は比較的高く「コイントスと同じくらいだ」と、ボストンを拠点とし、1,670億ドルの運用資産を擁するパトナム・インベストメンツでグローバル・マクロ・ストラテジストを務めるジェイソン・ヴェイランコート氏は述べた。
マクドナルド氏や他の運用マネジャーの予想によると、もし景気後退が起きるとすればそれは循環型であり、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった直後や、2008年の金融危機などの構造的崩壊が引き起こした劇的なイベントドリブン型の景気後退ではない。
「幸い、企業や消費者のレバレッジやデフォルト率がスタート地点では良好な状態にあるため、米国における今回の景気後退は比較的浅いものになる可能性がある。それが、インフレが落ち着き始めるまで、緩衝材のような役割を果たす可能性がある」と、インサイト・インベストメントでニューヨークを拠点に債券担当のCIOを務めるアレックス・ヴェルード氏は言う。インサイト・インベストメントは、BNYメロン・インベストメント・マネジメント傘下の運用資産8,171億ポンド(1兆700億ドル)を擁する資産運用会社である。
6月にインフレが鈍化した場合でも、ヴェルード氏によれば、同社はインフレ率がFRBの目標である2%を上回る状態が少なくとも2024年までは続くと予想している。インフレの構成要素には「粘着性が高く」、落ち着くまでに時間を要するものがある。例えば、家賃の上昇は2022年にかなり加速しており、低下するには何か月も要する、と同氏は指摘する。
景気後退と呼ぶかどうかは別として、「間違いなく何らかの景気減速が起きる」とインベスコのフーパー氏は語る。幸いなことに、この景気減速は比較的短期的なものとなり、市場は(数年ではなく数カ月で)将来の回復を織り込むようになる可能性がある。
「我々は顧客に対して、パニックにならないよう伝えている。現時点では、市場では何も破綻していないからだ」と、オルタナティブ投資コンサルティング会社クリフウォーターで最高経営責任者(CEO)を務めるスティーブン・L・ネスビット氏は述べ、「問題はすでに景気に織り込まれている。市場の方向性を予測することはできないので、顧客には市場のタイミングを計ろうとしないように強く勧めている」と語った。同社はニューヨークを拠点とし、一任運用資産80億ドル、助言資産990億ドルを擁する。
本記事はアーリーン・ジャコビウス、クリスティーン・ウィリアムソン、ヘーゼル・ブラッドフォード、ブライアン・クローチにより寄稿された。