執筆者:アーリーン・ジャコビウス
インフラ運用マネジャーは、1兆2,000億ドルの新インフラ投資法に盛り込まれた大部分を好感しているが、多くのマネジャーは、再生可能エネルギー・プロジェクトを推進するビルド・バック・ベター(Build Back Better)法案の方により高い期待を寄せている。
オーストラリアのゴールドコーストを本拠とする資産運用会社クインブルック・インフラストラクチャー・パートナーズ・グループ(運用資産額25億ドル相当)の共同創業者兼マネージング・パートナーであるデビッド・スケイズブルック氏によると、2兆ドル近い規模のビルド・バック・ベター法案は、少なくとも11月19日に下院で可決された内容に基づくと、「足元の米国GDPと雇用を、さらに強く押し上げる可能性がある」。
現在上院で審議中の同法案は、短期的な投資刺激策を提供して民間資本を後押し、その結果、より多くのクリーン発電所の建設を加速させ、米国の新しい製造施設に投資し、米国における水素産業を確立し、電気自動車向けインフラを構築するなどのプロジェクトを促すものだからである、とスケイズブルック氏は述べた。
コロラド州ボルダーを拠点とするインフラ資産運用会社ビジョン・リッジ・パートナーズ(運用資産額25億ドル)でマネージング・パートナーを務めるルーベン・マンガー氏は、ビルド・バック・ベター法が成立したら「これまでで一番高く評価する法律」になるだろうと語った。
ボストンを拠点とするインフラ資産運用会社ノース・スカイ・キャピタル(運用資産額15億ドル)でマネージング・ディレクターを務めるアダム・バーンスタイン氏は、インフラ投資法はより一般的で、ブロードバンド、輸送、エネルギー伝送などの分野に焦点を当てているのに対し、ビルド・バック・ベター法案はバイオ燃料や太陽光発電などの技術を支援するなど、よりターゲットを絞っており、インフラ投資の機会を増やすことができると述べた。
ビルド・バック・ベター法案が上院で激しい議論を経ている一方、11月15日にジョー・バイデン大統領が署名したインフラ投資・雇用法は、欧州に比べて出遅れている米国での投資機会を大幅に増やすことができると、インフラ運用マネジャーから評価を得ている。新法により、道路や橋から電気自動車向けインフラまで、5,500億ドルの投資機会が見込まれている。
「この法律は、民間資本にプラスの影響を及ぼすと考えている。それは主に、健全なセンチメントの醸成と、この法律によって米国のインフラ再生が初めて最優先の政策課題となったからである」と、スケイズブルック氏は語った。
新インフラ法が水素や電気自動車を重視しているのは、「将来の米国経済を野心的に進化させるという、バイデン政権の計画を反映している」と同氏は述べている。一方、同法に盛り込まれた原子力、二酸化炭素回収、送電網に関する取り組みは、「その野心を達成する上で障害となる今日の問題に狙いを定めたものである」と指摘した。
楽観的な見通し
運用資産額1,790億豪ドル(1,284億米ドル)を擁するIFMインベスターズで、ニューヨークを拠点とするインフラ・チームのエグゼクティブ・ディレクターを務めるトム・オズボーン氏は、インフラ投資・雇用法の成立を受けて、「米国のインフラに対する民間投資に関しては楽観的な見通しを持っている。法案は、官民パートナーシップの実施までは含まないものの、有益な条項がいくつか含まれている」と語った。
オズボーン氏によると、新法は官民パートナーシップの形態によるインフラ運用マネジャーの投資を容易にする条項を含んでいる。例えばこの法律では、民間が開発・運営する高速道路や陸上貨物輸送施設の資金調達を目的に発行できる非課税民間事業債の発行上限を150億ドルから300億ドルへ倍増している。また、これらの債券の用途をブロードバンドや炭素回収プロジェクトにも拡大している。
オズボーン氏によると、こういった債券は官民パートナーシップを含み、新施設の建設資金を調達するために低コストの負債を提供することになる。
マッコーリー・インフラストラクチャー・パートナーズ(運用資産額1,480億ドル)のニューヨークを拠点とするカール・クッヘル最高経営責任者(CEO)は同立法を、これまで十分な投資が行われていなかった米国のインフラに対する取り組みを始める「歓迎すべき前進」であるとした。
連邦政府資金の増加は、規制公益事業による脱炭素化の加速、港湾ターミナルの生産性向上、ブロードバンドへのアクセス拡大などのプロジェクトに対して、官民パートナーシップを活用する可能性を再検討する機会となる、と同氏は語った。
クインブルックのスケイズブルック氏もこれに同意したが、今後は州や地方のレベルで「複数の公的機関が民間資本とともに同法を実施していくことになるが、そこに懸念が残る」と指摘した。
アレス・マネジメント・コーポレーション(運用資産額2,820億ドル)のニューヨーク拠点でパートナー兼インフラ・電力事業の共同責任者を務めるキース・ダーマン氏は、署名されたインフラ法が「インフラ産業へのさらなる資金流入を促進する画期的な法律であると当社は考えている」と語った。
同氏によるとアレスの幹部は、送配電網の改善と電気自動車インフラの整備資金増加を通じて、同法が再生可能エネルギー業界に対する継続的な投資を促進すると予想している。
再生可能エネルギーに恩恵も
オルタナティブ投資の募集エージェントおよびセカンダリー市場アドバイザーであるキャンベル・ラティエンスでロンドン拠点のパートナー兼グローバル・インフラストラクチャー責任者を務めるゴードン・バイナイ 氏は、エネルギー転換と脱炭素化がインフラ法の最大の勝利者であり、再生可能エネルギー・インフラ業界への資産配分が促進される可能性があると述べた。
「次の懸念は、公的資金が民間資金を押しのけてしまうことだ。公的資金は民間資金を増幅させる役割を果たさなければならない」と同氏は語った。
投資家はインフレヘッジとしてこの資産クラスに魅力を感じている。しかし、プレキンの2021年第3四半期インフラストラクチャー・レポートによると、インフラのパフォーマンスは「回復力があり」、3月31日までの1年間の内部収益率は13.4%であった。
プレキンによればインフラ・ファンドは第3四半期に、四半期の総調達額としては過去6年間で第3番目の規模となる380億ドルを調達した。しかし、そもそもこれは、前年の2020年にインフラ・ファンドの資金調達が低調で、調達額が2019年実績を17.6%下回る546億ドルにとどまった後のことであり、それはプレキンのデータが示すとおりだ。
11月にインフラ法が署名されたものの、運用マネジャーは最低でも1年から2年は、新たなインフラ投資プロジェクトを立ち上げるための資金調達の増加を予想していない。それは連邦政府から新たな資金が州政府や地方政府に分配されて行くからだ。
この資金は、水質改善インフラプロジェクトのため地域に低コストの資金を提供するクリーン・ウォーター・ステート・リボルビング・ファンド(Clean Water State Revolving Fund) などの既存の仕組みを通じて州や自治体政府に配分されるだけでなく、インフラ法によって今回資金が供給されるようになった電気自動車向けインフラなどのプロジェクト用に構築が必要となる新たな仕組みを通じても供給される、とノース・スカイのバーンスタイン氏は述べた。
「インフラ投資家にとって現実の投資機会が訪れるのは、おそらく1年以上先の話になるだろう」と同氏は語った。
ビジョン・リッジ・パートナーズのマンガー氏は、再生可能エネルギーへの取り組みを採用するうえで邪魔になっていた路上のデコボコを均してくれることから、同氏のチームは「インフラ法に大きな期待をしている」と語った。
その1つの例が、高圧送電線開発について資金を供給し奨励する連邦グリッド・デプロイメント・オーソリティ(Grid Deployment Authority) の設置と、クリーン電力への取り組みのための全国的な送電回廊創設の最終的権限を米国エネルギー省に付与することだ、とマンガー氏は述べた。同氏によれば、数年前、再生可能エネルギーにより発電された電力の送電に必要な送電線の建設が幾度も試みられたが、州や自治体レベルで阻止されていた。