執筆者:ダグラス・アペル
中国株は、これまで中国政府がとってきた新型コロナウイルス発生を抑えるモグラ叩きのような政策による経済的影響から今年は低迷していたが、年も終わるという頃になって、この政策がより穏当なものに変わるという見通しから力強く回復している。
11月以降、政府が上海のような大都市におけるロックダウンや、数億人にも及ぶ厳しい行動制限などの極めて厳しい政策を撤回し始めたことで、香港上場の中国株は35%超上昇した。
それでもなお、ハンセン中国企業株指数は年初来では17%の下落となっている。
一方、中国企業の米国預託証券(ADR)指数はこの6週間で50%以上も跳ね上がったが、年初来ではまだ約14%のマイナスだ。それに比べると、国内の個人投資家が主体となっている上海と深圳のAシェアの株式指数は穏やかな回復に留まっており、4月の底値から、それぞれ12.3%と18.7%の戻りとなっている。年初の水準に比べると上海の指数はマイナス12%、深圳の指数はマイナス18%である。
中国経済がコロナ関連の規制から解放されつつあることで、抑えられてきた消費者需要を呼び戻し、中国株のさらなる上昇、ひいては世界経済の後押しにもなる可能性があると専門家は見ている。
中国の消費は今年「大幅に抑えられている」が、そのお金がどこかに消えたわけではない、とバリュー・パートナーズ・グループで欧州・中東・アフリカ担当のマネージングダイレクターを務めるデヴィッド・タウンゼント氏は述べた。同社は香港上場の中国株式を専門としているブティック型運用会社で、10月31日時点で52億ドルの運用資産残高を擁している。
お金はそこにあって使われるのを待っている、そして今、政府が新型コロナウイルスを抑制するためにコストを払うのとは反対に、コロナ同連の規制を国内企業や一般市民に対して緩める方向にあるのなら、たちまち「とてつもない可能性が解き放たれることになる」とタウンゼント氏は語った。
中国政府の新型コロナウイルス政策によって、中国の消費者が貯蓄モードを強いられて以来、「家計部門の銀行預金は42%増加しており、経済見通しの楽観論が復活すれば大きな消費パワーになる」というタウンゼント氏と同意見なのは、マシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントの投資ストラテジスト、アンディ・ロスマン氏だ。同社はマシューズ・アジアとして知られているが、サンフランシスコを拠点とするアジア特化の運用会社で、6月30日時点の運用資産残高は174億ドルである。
現時点では、コロナ規制の緩和見込みを材料に株式が上昇しているだけであり、まだ確実にその方向に進み出したわけではないので、市場の一部には投資家が先走りしすぎているのではないかと警告する声もある。
若干の緩和
「ようやく、少しずつではあるが本物の緩和というべきものが見られるようになった」ので、消費回復に対する投資家の期待も的外れではなくなった、と語るのはシンガポールを拠点に約10億ドルを運用するジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのアジア配当戦略担当ポートフォリオ・マネジャーであるサット・デュラ氏だ。
デュラ氏は、自分もそうした投資家のうちの一人だと言い、今年かなり売り叩かれた中国の国内消費関連株式のいくつかを、自分のポートフォリオに組み入れたと語った。同氏が運用するアジア株ポートフォリオでは、中国の組入比率を、過去最低だった年初の10%から今は13%〜14%にまで引き上げたと述べた。
12月7日、中国の国家衛生健康委員会は、11月11日に発表された20の最適化方針に続き、新型コロナウイルス感染防止と管理のための「さらなる最適化と実施」に関する発表を行った。最新の通知では、最大の移動制限を伴う「高リスク」の感染地域の区分を、住宅地区全体ではなく特定の建物のフロアなど、厳密な特定範囲に限定することや、PCR検査を必要とする要件と頻度を減らすこと、感染者を集中隔離施設に収容するのではなく自宅での隔離も許容すること、などが含まれている。
その発表当日は、ベンチマークの中国Hシェア指数が3%超の下落となり、投資家には不評のように見えたが、上海や北京など主要都市政府による制限緩和のニュースが続々と届くにつれ、中国株は堅調に上昇し、その週を終えた。
デュラ氏は、この数週間はニュースを好意的に受け止めすぎていると述べた。例えば、上海の人たちは公共交通機関に乗る際に新型コロナの検査を受ける必要が無くなくなるとか、咳止めの薬を買うために薬局であらゆる情報を登録する必要がなくなるかもしれないといったことは、「いかに今までが厳しかったかを思い起こさせるものであり」、まだまだたくさんの厄介なルールが残っているという証拠でもある、と言うのだ。
もっと重要なことは、中国が新型コロナ以前に直面していた問題、すなわち家計部門における負債の急増や不動産市場の崩壊など、さまざまな困難な課題があったことをよく思い出すべきだ、と同氏は指摘した。その意味で今回の規制緩和は歓迎すべきことではありながら、「中国が抱える問題を解決するものではない」と同氏は述べた。
しかし、よしんば正常化への道のりが長かろうとも、世界の投資家にとっては、政策の方向転換は中国株投資を検討する理由を増やすことになる、と市場関係者は言う。なぜならば、現在中国株は世界金融危機の頃(2007年から2008年)の水準で取引されており、かつ欧米ではインフレと戦う各国中央銀行のもとで企業が収益の下方修正に迫られている中、中国では今年、まだ金融緩和を行なっている数少ない中央銀行が背後に控えているからだ。
より楽観的な見方
中国経済の再開に向けた歩み、それと並行して、先月発表された国内不動産セクター支援のための政策、および最近の米中関係における緊張緩和の兆しなど、すべてが新しい年の幕開けとして中国株に対してより楽観的になれる材料だと、香港に拠点を置くユーリゾン・キャピタル・アジアの中国株担当ポートフォリオ・マネジャーであるシューヤン・フェン氏は語った。
その一方で、同氏は新型コロナウイルス規制の急速な解除は期待すべきではないと指摘した。
「中国政府は、一人当たりの集中治療室ベッド数が制約条件となるため、まだ穏やかなペースでの再開を望んでいるだろう」。つまり、移動制限と検査の制約をすぐに解除するのではなく、現行政策の「0.5バージョン」を取ることになるだろう、と同氏は語った。
バリュー・パートナーズのタウンゼント氏も、「いくら想像力をたくましくしても、一直線では進まないであろう」と同意を示したが、「進んでいる方向性については、かなり自信がある」と付け加えた。
良い例として、中国南部の都市である広州で最近発生した新型コロナウイルスのオミクロン株感染者急上昇に対する、中国の政策担当者の対応は、センチメントや消費者マインドの回復を促進する新たな規制を示唆している、とタウンゼント氏は語った。
タウンゼント氏の指摘によれば、政策担当者は実質的に「ロックダウンはない。仕事に行きなさい。食堂に行きなさい」と言っていたのだ。その結果、人々が「本当に緩和されるのだ」と言えるのであれば、「正常の状態が回復され、中国における機会も大きなものになる」と同氏は述べた。それは「経済にとっては確かに有益であり、株式市場やさらに投資家にとっても有益となる」と指摘した。
グローバル的な押上げ
中国経済の規模や重要性からして、世界中の投資家がこれらの恩恵をシェアすることも可能だ。
中国がゼロコロナ政策を縮小、あるいは終了させていくかもしれないという兆しは、グローバルな視点からは「大きな意味をもつだろう。特に、国家としての中国だけでなく、サプライ・チェーン不足などの問題で、中国と通常取引している他の国々の人々にとっても重大だ」、とピッツバーグ拠点のフェデレーテッド・エルメスで、グローバル流動市場担当の執行副社長兼最高投資責任者(CIO)を兼務するデボラ・A・カニングハム氏は述べた。
中国の供給不足が終結すれば、米国の景気下降リスクも低くなるだろう、と同氏は指摘した。
「中国の需要回復が、グローバルな成長に与える影響は非常に大きいであろう」、少なくとも米国や欧州の景気低迷に起因するグローバルな成長鈍化の一部を相殺するだろう、とジャナス・ヘンダーソンのデュラ氏は同意した。
それでも、中国におけるアニマル・スピリットの回復には時間がかかるであろう、と同氏は予想した。
12月初旬に公表されたゴールドマン・サックス・グループのレポートによると、中国の新型コロナウイルス規制の緩和について、異なるいくつかのシナリオを調査した結果、管理された緩和策が最も可能性が高いと指摘した。一部には、中国市民にとっての負担を軽減するための緊急措置が取られるが、全体的な進捗状況は同国の医療制度に過度なストレスをかけないような、穏やかなものになる見込みだ。ゴールドマンの予想では、中国のGDP成長率は2023年に4.5%と2022年の3%から立ち直り、2024年には5.3%へと回復が継続する。しかし、中国が新型コロナウイルスの再流行以前の、2019年に達成した通年成長率6%は引き続き、下回る水準だ。
ゴールドマンのリポートの指摘によれば、北京政府が、80歳超の人口をいかに速やかに保護するかが障害となっている。ワクチン接種対策の弱い点は、まだ40%しかブースター接種を受けていないことだ。政府は先月、ワクチン接種をすでに受けている老齢層に、至急ブースター接種を受けるようキャンペーンを開始した。
シンガポール拠点でルーミス・セイレスのシニア・ソブリン・アナリストを務めるボー・チュアン氏は、12月6日に行われた「2023年の見通し」についての講演で、ここ数週間に大陸全体にわたる都市で、新型コロナ規制に対する抗議活動が発生したことにより、恐らく中国の指導者は考え方を変えたと思われる、と語った。彼らにとっては、新型コロナに関する健康的要求より、社会的不安の方が大きな脅威なのだ、と強調した。
チュアン氏によれば、例え、急速な規制緩和によって新たな感染者数が爆発的に増加し、短い期間であれ、病院が満杯になったとしても、中国の指導者は「ショック療法」アプローチを受け入れるであろう。
すでに取られた措置によって、中国での新コロナウイルスの感染者数は急激な上昇を見せている。
感染者数はすでに1日当たり2,000人から30,000人超へと上昇しており、とりあえず緩和策はまだ継続されている、とデュラ氏は指摘した。同氏はチュアン氏が描くものよりも、より整然とした見通しに期待を持っている。
新型コロナウイルス感染者数が増加せず、中国の医療体制も崩壊せずに「この冬を無事に過ごすことができたなら」、そして信用や流動性の状況が適正に造り出されるなら、既存のモメンタムは継続できる、とデュラ氏は予想した。「多くの仮定(ifs)はあるが、そのようなシナリオが実現する可能性はある。バリュエーションや企業収益は、現にその可能性を支持している。それは価格が大きく下がったからだ。妥当な見方だと思う」と同氏は語った。