執筆者:ソフィー・ベイカー、ポリーナ・ピエリチャタ
投資適格債の運用マネジャーは2021年と2022年を格付引き上げの年とみなし、多くのハイイールド債発行体が格上げされることになるとみている。
格付機関が今年は最大1,000億ドル、2022年は最大2,000億ドルのハイイールド債を投資適格に引き上げるとの予想から、投資適格債の運用マネジャーは、戦略上許容される範囲内で格上げが予想されるジャンク債を購入し、利益を得ようと目論んでいる。
アトランタを拠点とするインベスコの北米投資適格債責任者兼シニア・ポートフォリオマネジャーのマット・ブリル氏は、「2021年は格上げの年になる。重要なポイントは、企業は債務削減に向けて勢いがあるということだ。昨年、企業の信用状態が悪化し、振り子が格下げ側に大きく振れたが、今はその逆になりつつある」と語る。インベスコの2020年12月31日時点の債券運用額は2,964億ドルだった。
ボントベル・アセット・マネジメントの債券運用チームは、ハイイールド債のうち米国では2,000億〜3,000億ドルの債券が、また欧州では500億ユーロ(596億ドル)の債券が来年末までに投資適格に格上げされると予想している。
S&Pグローバル・レーティングは昨年12月2日付の資料で、発行残高3,672億ドル相当の債券が、年初から同日までに投資適格から非投資適格に格下げされたとしている。同資料は米国、欧州、中東およびアフリカを対象としている。
チューリッヒを拠点とするシニア・ポートフォリオマネジャーのクリスチャン・ハンテル氏は、「(何社が格上げの対象となるのか)正確な答えを得るのは困難だが、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うクレジット・サイクルの新たな時期に入りつつあるため、このテーマは注目を集めている」と述べている。
「昨年は大惨事だった。EBITDAが崖から崩れ落ちるように急減し、信用面の数値も急激に悪化し、その結果、格下げされた企業もあった」と同氏は語る。
しかし、世界経済が回復期に移行するにつれ、「バランスシートの修復と信用格付の回復が全面的に進んでいる兆候はすでに見られており、第4四半期の利益水準は世界規模で極めて堅調だ」とハンテル氏は言う。2020年度の決算結果によると、ボントベルの12月31日時点の債券運用額は480億スイスフラン(544億ドル)だった。
業界情報筋によれば、投資家が今年あるいは来年の格上げを見越して投資しているのは米食品持株会社クラフト・ハインツなどの社債だ。
運用マネジャーが予想するような、格上げされる特定のセクターはないが、ブリル氏は格上げ候補企業には三つの「グループ」があるとする。一つは2020年にジャンクレベルまで格下げされたが、今年あるいは来年に復活すると期待される「堕天使(フォーリンエンジェル)」、二つ目は長年ハイイールド債の地位に甘んじてきた企業で、世界金融危機の影響により格下げされたが、債務圧縮と住宅市場の改善から恩恵を受けている一部の住宅メーカー、三番目は投資適格として認められるのに必要な信用レベルにまだ達していないハイテク関連などの新興企業だ。
この最後のグループに属する企業で、格上げ候補として運用マネジャーが挙げるのがネットフリックスなどの企業だ。
デフォルトリスクの低下
パンデミックの影響を減らす対策の一環として2020年に各国中央銀行が実施した金融緩和策は、デフォルトリスクの低下を促しハイイールド債への需要を高めた。このため、運用マネジャーは、「堕天使」およびこれまで投資適格になったことがないハイイールド債の両方を増やしたい、と語っている。ジャンク債で格付けが最も高いBB格債、および投資適格債で最も格付けの低いBBB債との間のスプレッドが極めて魅力的だからだ。
インサイト・インベストメント・マネジメントの債券投資スペシャリスト、サブリナ・ジェイコブズ氏は、「一度も投資適格となったことはないが、おそらく格上げが予想される債券に対して投資する可能性がある。企業のキャッシュフローと債務水準を注視し、どちらの方向への格付変更に対しても格付機関を先回りするように努めている」と語った。同氏によると、1月だけで約10億ドルの債券が投資格付債に新規に加わり、投資適格債マネジャーでも投資可能になったという。インサイトの12月31日時点の運用資産額は7,530億ポンド(1兆200億ドル)だった。
とは言え、格上げされそうだと言うだけでは、ハイイールド債の発行体が投資適格債券のポートフォリオに無条件で追加される訳ではない。「BB格付けに甘んじていて、その格付けが維持されそうな発行体ではなく、特定の格上げ候補を求めている」とインベスコのブリル氏は述べ、「こうした銘柄の多くは、かなり流動性があることも指摘しておきたい。このような債券を見出すことは可能だ。通常は、干し草の山から針を探すようなことではなく、比較的大きな発行量で流動性がある」と続けた。
しかしながら、最近格下げになった銘柄を組入れようとしている運用マネジャーは、忍耐が必要だろう。「格下げと同様のスピード感は、格上げ時には期待できない。」と、ロンドンのウェルズ・ファーゴ・アセット・マネジメントのシニア・ポートフォリオマネジャー兼欧州クレジットチームの投資適格債券責任者であるヘンリエッタ・パックマン氏は述べた。同氏によれば、ウェルズ・ファーゴは非投資適格債券の保有について柔軟なため、今年後半に投資適格に格上げされる可能性があるハイイールド債の組入れを検討している。「興味深いセクターは、例えば、低迷している景気循環銘柄群で、投資適格への復帰を期待できる可能性がある銘柄」と同氏は付け加えた。
さらなる柔軟性
運用マネジャーの一部はハイイールド債の組入れに柔軟になってきている。ジェイコブス氏によれば、インサイトは相対的なスプレッド拡大を背景に、ハイイールド債に関するポートフォリオ毎の組入れ許容枠を1~2%拡げた。
回復過程の十分早い時期に組入れれば、格上げが期待される銘柄の追加はアルファの良好な源泉になると、ロンドンのJ.P.モルガン・アセット・マネジメントでグローバル投資適格債券チームの責任者を務めるアンドレアス・ミハリツィアーノ氏は述べている。「最大価値を引き出すには早期にポジションをとることが必要であり、我々はそう出来たと思う」。
しかし、格上げが差し迫る中、投資機会は縮小しつつある。「BB格およびBBB-の債券に目を向けると、スプレッドに関しては大幅に離れている訳ではなく、25ベーシス程度の話である」と同氏は言う。
コロナ危機のために2020年に投資適格から格下げされた製造業やストレス・クレジット(一時的に業績の苦しい企業の債務)は、投資適格への格上げに伴うスプレッド縮小を捉えることで、かなりの収益機会が投資家に提供される可能性があると、フランクリン・テンプルトンの関連会社でフィラデルフィア所在のブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントLLCでグローバル債券運用チームのポートフォリオマネージャーを務めるブライアン・クロス氏は述べた。
米国債市場における利回り上昇により確実となった金利リスクを受けて、ブランディワインは長期の投資適格社債の組入れを最大25~30%から5~10%まで引下げ、短期の投資適格債ならびにハイイールド債に入れ替えていると、クロス氏は指摘した。
「パンデミックによるスプレッド拡大が綾戻しし、金利上昇を吸収する余地がほとんどなくなったことから、我々は長期投資適格社債の組入れを引き下げた」と同氏は付け加えた。
一方、運用マネジャーは格上げ候補を追加し続けている。ロンドンのピクテ・アセット・マネジメントで投資適格債券の責任者を務めるジョン・マビー氏によれば、同社の制約のない投資戦略では、先月、BBB格で債務過多の景気循環セクター企業の社債を売り(ショートし)、格上げが期待できるBB格の債券を買う(ロングする)戦略的なトレードを実行した。「格付機関が、前回の金融危機時のように市場の後追いだと見られることを避けたがっていることから、我々は(格付け)見通しと格付けに対する圧力が引き続き高まると見ている」と同氏は付け加えた。
ハイイールド債 対 長期債
他の運用マネジャーも長期の社債を減らし、ハイイールド債の組入れを増やしている。
例えば、フランクフルトのユニオン・インベストメント・ホールディングスAGでクレジット部門の責任者を務めるステファン・エルツ氏も、投資適格債券のポートフォリオにハイイールド債を加え、同債券の比率は11月の5%から組入れ枠上限である10%に達した。一方、同社は長期の投資適格社債券を売却している。
「企業のバランスシートは改善しており、信用の基準を十分満たし成長が期待できることから、ハイイールド債の発行企業には追い風となるだろう。格上げの可能性が表面化するまで待つのではなく、それまでに買っていなくてはならない」と同氏は付け加えた。
現時点では、投資適格債券よりハイイールド債の保有を選好するとエルツ氏は述べ、「デュレーションが長くスプレッドが小さい投資適格社債より、デュレーションが短くスプレッドが大きいハイイールド債を保有する方が好ましい」と付け加えた。